第92話-ラキさまとグラシーナさん

  ブランに促されながら、ラキ様もグラシーナさんも奥に向かいます。当然のようにリュングも付いて行きました。でも、黒ドラちゃんとドンちゃん、食いしん坊さんはテルーコさんが見せてくれる綺麗な宝石の方に興味があったので残りました。ラウザーは奥を気にしながらも、尻尾をニギニギしていて動きません。


「ラウザー、気になるんでしょ?ラキ様についていかなくて良いの?」

 不思議に思った黒ドラちゃんがたずねると、ラウザーは尻尾を高速ニギニギしながら答えてくれました。

「う、うん。気にはなるんだけど……」

 そう、ものすごく気になります。だって、ふじのって言ったら、ラキ様がこの世界に残る原因になった女の人の名前です。その人への想いがあるから、南の砦のオアシスを守ってくれているんです。でも、もしグラシーナさんがふじのさんだと言うなら、オアシスに残る意味はないんじゃないか?

 もう、南の砦からは出ていく、なんて言われちゃうんじゃないか?そう考えるとラウザーは胸が苦しくなってラキ様達の話を聞くことができなくなっちゃったんです。ラウザーが不安で尻尾を握りしめていると、奥からリュングが顔を出しました。


「もう!陽竜様、なにぼやっとしてるんですか!ラキ様がお怒りですよ!」

 そう言ってラウザーの服を引っぱって「早く、早く!」奥へと連れて行きます。


 お店の奥では、ラキ様が「羅宇座、何をしておった?遅いぞ!」と言いながら、自分の横をタンタン叩いています。ラウザーは嬉しくなって、尻尾を大車輪のように回しながらラキ様の隣に座りました。グラシーナさんは無言で目を見張っています。リュングのため息が辺りに響きました。


 円卓に座り、グラシーナさんとラキ様は静かに見つめあっています。


 ラウザーは尻尾をニギニギしながら、落ちつか無げに二人を交互に見ています。リュングは、良くわからないけど背筋を伸ばして話が始まるのを待っていました。ブランが見かねて口を開きました。

「あの、お二人は知り合い……なのですか?」

 グラシーナさんは答えようとして口をつぐみました。何と言ったらいいのかと、迷う様子が見て取れます。それを見て、ラキ様が先に話し始めました。

「昔、そなたにとてもよく似た娘に会ったことがある。とてもとても昔のことじゃ」


 その娘さんがふじのさん、という名前だったこと。こことは違うことろからやってきたこと。意に沿わぬ結婚をして、身重の体でこの世界に逃げてきたこと。そして、そして男の子を生んで息を引き取ったこと。


 そこまでラキ様が話した時、グラシーナさんが泣きだしました。

「わたしは――」


 すぐには話が出来ないようですが、皆は辛抱強く待ちました。



 ようやく少し落ち着いてくると、グラシーナさんは話しだしました。これまで、誰にも話したことのなかった、自分の秘密を。


「わたしには、幼いころから繰り返し繰り返し見る夢がありました」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る