第86話 オアシスとえへへへへ

 舞踏会の招待状を持って、王都からゲルードがやってきたのは、それから間もなくだった。


「え、俺も行って良いの!?」

 招待状にはちゃんと俺の名前が書かれていて、ぜひパートナーもお連れ下さい、となっている。

「パートナー?」

「輝竜殿は古竜様をお連れになるでしょう。華竜様は返事を保留にされております。陽竜殿は……」

 そう言って、ゲルードがチラリとオアシスに目をやる。えーーーーーっ!ラキ様を誘うの!?俺が!?片手に招待状、片手に尻尾をニギニギしながら俺がドギマギしていると、ゲルードがクスリと笑った。

「断られる心配はないと思いますよ。ただ……」

「ただ?」

 なに、もったいぶらずに言えよー!

「舞踏会には国の内外から要人が集まります。中には強い魔力を持つ者もいるでしょう」

「う、うん」

 そうだな、充分あり得るな。

「決して女神さまのお名前を口にしませんように。……もちろん、真名のことですよ」


 ばれてる。


 ゲルードにはラキ様の名前が本当は違うってこと、すっかり見抜かれているようだった。

「俺、口堅いから!絶対に喋らないから!」

 尻尾を高々と上げて宣言した。

「ふっ」

 ゲルードが、やれやれみたいな顔してる、お前、失礼だぞー!


 まあ、失礼な感じのゲルードのことは置いておいて、俺は舞踏会のことをラキ様に報告しに行った。


「ほう、羅宇座のパートナーを我に?」

「は、はい。あの、ダメでしょうか?」

 がんばって尻尾は握らずに話してみる。がんばれ!俺!

「よし。行ってやろう。ただし、その尻尾は仕舞っておけ」

「えっ!本当に!はいっ!仕舞っておきます!絶対に出しません!」

「ふっ」

 あれ、なんかその笑い方、さっき失礼な魔術師にされたぞ。

「人の姿で行くのであろう?尻尾が出ていては間抜けだからな」

「はいっ!はいっ!はいっ!は、ぴゃっ!」

 俺は、返事は一回で良いとラキ様に稲光を飛ばされるまで、興奮して返事をし続けた。


 ラキ様と舞踏会……えへへへへ~。浮かれてふらふらとオアシスから出てくると、魔術師見習い君が待っていた。

「陽竜様、急いで舞踏会の衣装を作らないといけません!女神様にもあとでご意見を頂かなくては!」

 張り切ってるね、悪ガキの末裔よ。名前は確か……

「リュング、大丈夫だよ。俺、魔力でいくらでも衣装なんて変えられるし。あとさ、ラキ様の衣装は今のままでも十分綺麗だと思うけどなあ」

 そう答えると、リュングは目を丸くして俺のことを見ていた。ふん、ただのダメ竜と思うなよ!得意になって竜の姿のままを歩きだすと、後ろでリュングがつぶやいていた。

「万が一を考えて、あの尻尾を仕舞えるような、たっぷりしたズボンにしなきゃな」

 な、失礼なやつだな!尻尾なんか出さないぞ!絶対に!


 でも、結局コレドさんからも衣装を作るように勧められて、俺は南の地方の正装で衣装を作ることになった。ラキ様にも作ろうとしたら、やはり普段の衣装が良いって。でも、色や作りは魔力で多少変えるって言ってた。楽しみだなあ。


 ブランや黒ちゃんは、ラキ様のことを見たらなんていうかな?あんまり綺麗だからびっくりするんじゃないか?でも、ラキ様のパートナーは俺だもんねー!えへへへへ。




 舞踏会ではラキ様はスペシャル&可愛い&エキゾチック&ハニー!だった。なんか、そういう風なことを色々な人たち(主に男性客)から言われていた。華やかで優雅で色っぽくて、それでいて清純さも感じられて、最高でしたあ!で、俺はって言うと……すみません、尻尾は出まくりでした。ラキ様に稲光で度々注意されたけど、ラキ様が可愛すぎるのがいけないんだ!えへへ。


 ブランと黒ちゃんにも会ったな。ラキ様については、まだ砦の中だけの秘密だって言われてたから、説明できなくて焦った。そのうち、ゲルードがちゃんと話してくれるって言ってたから、大丈夫だろうけど。スズロ王子のご婚約で、ノーランドのお姫様が現れたけど、俺の目はずっとラキ様に釘づけだった。

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