第68話ーノラウサギ!

 中庭の真ん中で倒れている黒ドラちゃんを見て皆大あわてです。

「大変だ!古竜様が!」

「すぐにゲルード様にお知らせしろ!」

「水、水ー!?かな?」


 その中で威厳のありそうなやや年嵩の男の人が「鎮まれ!古竜様は眠っておられるのだぞ!」そう声をあげて集まった人たちを静かにさせました。それから「イヴァン、ゲルード様と輝竜様をお呼びしなさい」と指示を出しました。イヴァンと呼ばれた若い男の人は「はいっ!トディ様!」と言うと、すぐに屋敷の方へ走って行きました。


「他のものは屋敷に戻りなさい」

 トディと呼ばれた人は集まってきていた屋敷の人たちを持ち場に戻らせました。そして、その場に立ちつくしていたカモミラ王女とドーテさんの方へやってきました。


「カモミラ王女、お怪我などはございませんか?」

 トディさんがたずねます。

「大丈夫です。それよりも、黒ドラちゃんはいったいどうしたんでしょう?いきなり倒れてしまったのだけれど」

 そばで見ていたドンちゃんがすかさず「びっくりしちゃったんだと思う!」と言いました。トディさんは、黒ドラちゃんの上に乗っているドンちゃんに気がつくと、ゆっくりと抱き上げました。

「もしよろしければ、説明していただけますか?ドンちゃん様」

 ドンちゃん様、なんて初めて言われます。なんかくすぐったいような変な気持になりましたが、ドンちゃんはこれまでのことをトディさんに話しました。



「なるほど、で、ようやくドンちゃん様がみつかって、ここで出会えたものの、古竜様は眠ってしまわれた、と」

そうトディさんがつぶやいた時のことです。

「黒ドラちゃん!」

 ブランが竜の姿で庭をひとっ飛びに飛んできました。後ろからゲルードとイヴァンさんも走ってきます。


「トディ様、私が呼びに行く途中で、すでに輝竜様がこちらに向かっておられました」

 ぜいぜいと息を切らせながらイヴァンさんが話します。その間に、ブランは黒ドラちゃんのところへ行って、すぐそばにしゃがみこんでいました。黒ドラちゃんの背中の魔石のうろこのおかげで、ブランは黒ドラちゃんに何かあればすぐにわかるのです。


「ブラン、黒ドラちゃんは大丈夫なの?」

 ドンちゃんが不安そうに言うと、黒ドラちゃんの様子を見たブランがホッとしたように「ああ、大丈夫だ。眠っているだけだよ」と言いました。


 ブランが黒ドラちゃんの顔を覗き込んで、ゆっくりと冷たい息を吹きかけました。すると「へっくちっ!」と大きなくしゃみを一つして、黒ドラちゃんが目を覚ましました。何度か目をぱちぱちさせて、起き上がります。まだボーっとしているようです。

「黒ドラちゃん?だいじょうぶ?」

 ドンちゃんが声をかけると、黒ドラちゃんがゆっくりとドンちゃんの方を見ました。それから、横にいるブラン、ゲルード、カモミラ王女、ドーテさん、そして灰色モフモフのグィンを見たとたん「ノラウサギ!」と叫びました。

「ブラン!ブラン!ドンちゃんが消えちゃって、そっくりな王女様が現れて、一緒に探してくれるって!そしたら灰色のモフモフが出てきて、ドンちゃんは自分のことノラウサギだって言うの!プチなんだって!」

 矢継ぎ早に話し始めた黒ドラちゃんを、ブランが安心したような困ったような顔をしながら落ち着かせます。

「黒ちゃん、落ち着いて。とりあえず、もう屋敷へ戻ろう?」


 なんだかもう、今日はダンスの練習どころではなくなってしまいました。黒ドラちゃんとドンちゃんは、ブランに連れられて屋敷へ戻りました。家令のトディさんのおかげで、戻ってきた黒ドラちゃん達を、屋敷の人たちは大騒ぎせずに迎えてくれました。もう一度、今度はカモミラ王女と一緒に、ゆっくりと甘いお菓子を食べて美味しいお茶を飲んで、ちょっとほっこりしたところで帰ることになりました。


 魔法の馬車で森のそばに送ってもらって、ドンちゃんを巣穴の近くまで送ってバイバイして、なんだかよくわからないうちに、黒ドラちゃんは洞の中で丸くなっていました。あ、ドンちゃんのお母さんにノラウサギのこと聞くの忘れちゃった、と黒ドラちゃんは思いましたが、今日はとてもとても疲れていので、また後で聞くことにしました。大きなあくびを一つすると、黒ドラちゃんはもう夢の中でした。






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