第66話ー食いしん坊さん
「ノーランドまうさぎ?」
ドンちゃんが首をかしげてたずねると、灰色モフモフは嬉しそうに話しだしました。
「そうだ。我が国ノーランドの宝と言われているのだぞ!?我らは」
「我らって、他にもいるの?」
「ああ、わが一族はノーランド魔ウサギの中でも最も魔力高く、誇り高き一族である!」
「へー……」
「ふむ、お前は見たところノーランドプチ魔ウサギだな」
「プチ?」
ドンちゃんが聞き返すと「そうだ。見るからに小さかろう?」と言われました。確かに、目の前の灰色モフモフに比べれば小さいです。
「あ、あたし、これからもっと大きくなるもん!」
ドンちゃんは言い返しました。
「いや、別に小さいことは悪いことではない。小さいからこそ生き残れたのだろうからな」
灰色モフモフがしみじみと言いました。
「生き残れたっていうと、他のノラウサギはどうなったの?」
ドンちゃんは怖くなって聞いてみました。
「ノラウサギは魔力が高く、その毛皮は炎や氷をはじくと言われてな」
「そうなの?」
ドンちゃんは自分の体を見てみます。何かをはじいたことなんて無いよね?と思いながら。
「……人間同志の争いが起こった時に、防具としてたくさんの仲間が狩られたのだよ」
「か、狩られた!?狩られたって!?」
ドンちゃんは怖くて胸がドキドキしてきました。
「毛皮のために命を奪われたんだ」
そう語る灰色モフモフの目は冷たく澄んだ青でした。モフモフの毛が邪魔をして、今まで良く見えませんでしたが、なんて綺麗で、なんて悲しそうな色なんだろう、とドンちゃんは思いました。
「じゃあ、あたしたち、今も狩られちゃうかもしれないの?」
胸をドキドキさせながらドンちゃんがたずねると、灰色モフモフは安心させるように優しく言いました。
「いや、人間同士の争いが治まった後、絶滅しそうな我らのことを当時のノーランド王が救ってくれたのだ」
「救うって、どうやって?」
「我らが身の内に持つ魔力を、他者へ使えるように、王自らの魔力でノラウサギの力を解放してくださった」
「へー!」
「おかげで一方的に利用されるばかりだった我らも、自らの力で身を守り、再び仲間を増やしていくことが出来るようになったのだ」
「そうなんだあ」
ドンちゃんはホッとしました。今でも狩られ放題だ、なんて言われたらどうしよう!?って思っていたのです。
ホッとしたところで、ドンちゃんは気になっていたことを聞いてみることにしました。
「あの、灰色さん、あなたには名前は無いの?お友達には何て呼ばれているの?」
ドンちゃんがたずねると、灰色モフモフは驚いたようにモフ毛に隠れた目を見開きました。
「ややや!これは失礼した!思いもよらない場所で同胞に出会えた喜びで、名乗りもしなかったとは!」
そう言って、灰色モフモフさんはドンちゃんにゆっくりとお辞儀をしました。
「我が名はグィン・シーヴォ三世、由緒正しきノーランド魔ウサギである」
「くいしんぼうさん?食いしん坊……そっか、だからそんなに大きくなったの?」
ドンちゃんが茶色のキラキラした瞳で見つめました。
「な、なんと!由緒正しきグィン・シーヴォの名を知らぬノラウサギがいるとは!」
灰色モフモフさんはかなりのショックを受けていました。でも、ドンちゃんのキラキラした茶色の瞳で見つめられていることに気付くと、急にそわそわと毛づくろいをして「ま、君にだけは好きなように呼ぶことを許そう」と言ってくれました。
黒ドラちゃんは、茨の生垣の前でしばらく泣いていました。でも、ドンちゃんが戻ってくる様子はありません。
涙を拭いて立ち上がると、庭の中を探してみることにしました。
綺麗なお花がたくさん咲いていて、さっきドンちゃんと歩いている時にはとても楽しかったのに。今の黒ドラちゃんには、ただの見知らぬ庭にしか思えませんでした。すると、黒ドラちゃんが歩いてきた方とは逆の方から、話し声が聞こえてきました。
「姫さま、姫さまはもっとご自分に自信をお持ちください!」
「無理よ、そんなの……」
「いえ、このままでは姫さまの本当の素晴らしさを、誰にも理解してもらえないではありませんか!」
「良いの。私は――」
その時、黒ドラちゃんと話し声の主たちが庭の中でばったりと出会いました。
「まあ!」
「えっ!?」
お姫様と黒ドラちゃんは同時に声をあげました。
そこにいたのは、ドンちゃんと同じ茶色のふわふわした癖っ毛をリボンでとめて、薄青のドレスを身にまとったお姫様でした。優しそうにちょっぴり垂れた大きな瞳も、ドンちゃんと同じ茶色です。そばには少し年下の侍女さんらしき人がついていました。さっきまでの話し声は、この二人の会話だったようです。
「ドンちゃん!?」
「えっ!?」
「ドンちゃんでしょ!?人間に変身できるようになったの!?すごい!可愛い!ドンちゃん!」
黒ドラちゃんは、ドンちゃんのそっくりさんの手を取ってピョンピョンと飛び跳ねました。
「あ、あの、えっと……あなたは?」
ドンちゃんのそっくりさんは戸惑いながらたずねてきます。その声を聴いて、黒ドラちゃんはアレ?と思いました。
「ドンちゃん……と、声が違うね」
「あの、私はそんなにドンちゃんという人に似ているのかしら?」
黒ドラちゃんはピョンピョン飛び跳ねるのをやめて、そっくりさんのことを見つめました。
「ドンちゃんはうさぎなの。特別なうさぎなの。一番のお友達で仲良しで、一緒にダンスを踊るはずで、でも、急にいなくなっちゃって……」
そこまで話して、また悲しくなった黒ドラちゃんは「うわーん」と泣き出してしまいました。ドンちゃんのそっくりさんと、そばで呆気にとられていた女の人は、あわてて黒ドラちゃんを慰めることになりました。
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