3章了 見守ってるよ

 黒ドラちゃん達もそろそろ帰る時間が近づいていました。


「マグノラさん、初鱗のこと色々教えてくれてありがとう」

 黒ドラちゃんが言うと、マグノラさんはにっこりしました。

「本当に今回は助かりました。ありがとうございます」

 ブランも深々と頭を下げました。

「ま、坊やの<若気の至り>が悪い結果にならなくて良かったよ」

 マグノラさんはガラガラ声で笑ってくれました。そして「焦るんじゃないよ。竜の生は長いんだ。ゆっくりお待ち、見守りながら」と優しく言います。ブランはちょっと赤くなりながら、コクンと一回うなずきました。


「マグノラさん、あたし、また遊びに来て良い?」

 ドンちゃんが聞くと「もちろんだ」と元気に答えてくれます。そして「ドンチビちゃん、また背中に乗せて良い?」とガラガラ声を可愛らしくして聞いてきました。

「もちろんだよ!」

 今度はドンちゃんが嬉しそうに答えました。

「さあ、そろそろお帰り。ついでにクマン魔蜂も連れて帰ってあげとくれ」

 そういうと頭の上からクマン魔蜂さんを降ろしました。

「……ぶぶーん」

 心なしかクマン魔蜂さんの羽音がさびしそうです。

「ああ、お前さんもまた遊びにおいで」

 マグノラさんが言うと、クマン魔蜂さんは元気に黒ドラちゃんの頭の上に飛んできました。


「マグノラさん、またね」

「ああ、またね。おチビちゃんたち。今日は楽しかったよ」


 夕日を浴びて、お花畑の真ん中にマグノラさんが岩のように立っています。森の外へと続く一本道を歩きながら、黒ドラちゃんとドンちゃんは何度も何度も振り返って手を振りました。赤と茶色の大きな体が遠ざかり、やがて白い大きなお花の咲く緑鮮やかな森の中へと見えなくなりました。


 森を出ると、ブランともサヨナラだと思っていましたが、また古の森まで送ってくれると言います。

「マグノラ……さんと、約束したからね」

「いつしたの?」

「さっき、約束した」

 黒ドラちゃんはちっとも気がつかなかったなーと思いましたが、せっかくなので送ってもらうことにしました。ゲルードがクマン蜂さんに追いかけまわされて泣きべそかいてたこととか、色々思い出して笑いながら飛んでいると、あっという間に古の森に着いてしまいました。


 森の外れの方へ降りて、ブランとはそこでお別れです。


「ブラン、今日はありがとう。このお祝いの魔石、とってもうれしかった!」

 黒ドラちゃんが背中を振り返りながら言いました。

「今度から、会いたいと思ったらいつでもブランに会えるんだね!」

 そう言って、ブランを振り返って驚きました。ブランが涙ぐんでいます。

「ど、どうしたの!?ブラン?」

「ううん、何でも無いよ。僕もうれしかったんだ。“会いたい時に会える”ことが」

 そう言って静かに黒ドラちゃんを見つめます。黒ドラちゃんの胸がドキンドキンとし始めた時「ふあ~っ」とドンちゃんが背中であくびをしました。

「あ、そうだった!早くドンちゃんちに送り届けないとおかあさんが心配してる!」

 黒ドラちゃんがあわてて飛び上がると、ブランも羽を広げました。

「またね、黒ちゃん」

「うん、ブラン、またね!」

 そう言って、暗くなり始めた空をブランは北へ、黒ドラちゃんは森の中へ進んでいきました。


 ドンちゃんのお母さんに、背中のうろこが取れたことを話すと「良かったね。これで今夜からはぐっすりね」と言ってくれました。

「またドンちゃんをマグノラさんのところに連れて行っても良い?」

「ええ。マグノラ様の森なら安心だもの」

 さすがマグノラさん、女性からの支持はばっちりのようです。


「またね、ドンちゃん!」

「またね、黒ドラちゃん!」

 いつものように元気に挨拶して、洞へと帰りました。




 森が夜に包まれて、フクロウのおじいさんのホーッという鳴き声しか聞こえなくなった頃です。黒ドラちゃんは、洞の中で大きくゴロンと寝返りをうちました。エメラルドグリーンのうろこが背中でキラリと輝いて、黒ドラちゃんを優しい光が包み込みました。


 見守っているよ、って言うように


 ゆっくり大きくなってね、って言うように








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