第36話ーうろこの魔石

 ちょっと考え込んだ後、黒ドラちゃんは初鱗を持ってマグノラさんの前に立ちました。

「これはマグノラさんに贈るね。あたし、すごく助けてもらったし」

 黒ドラちゃんはマグノラさんに初鱗を差し出しました。マグノラさんは初鱗を見つめて少し考えていましたが「せっかくだ、ありがたく頂くね」と受け取りました。そして、見るからに肩を落としているブランの方へ向くと、こう言いました。

「ねえ、ブラン坊や、お前さんのところにマグノラの花みたいな魔石があるって、前に言ってたよね?」

 突然話しかけられてブランは一瞬言葉に詰まりましたが、すぐに思いだしたようで「?う、うん」と答えました。

「あたし、その魔石がずっとずーっと欲しかったんだ。良かったらこの初鱗と交換しておくれ」

「えっ!?」

 ブランが驚きます。

「なかなかお目にかかれない貴重できれいな魔石だって言ってたけど、可愛い黒チビちゃんの初鱗なら十分交換する価値のある品物だろ?」

「もちろんだけど……」

 ブランは黒ドラちゃんががっかりするんじゃないか、と気にしているようです。

「あたしは別に良いよ。マグノラさんの役に立つならうれしいよ!」

 黒ドラちゃんがそう言うと、ブランもようやくうなずきました。マグノラさんから黒ドラちゃんの初鱗を受け取ると「魔石は明日にでも届けますよ、マグノラさん!」とブランはものすごく嬉しそうです。やっぱり本当はとっても欲しかったんですね。

 そして、黒ドラちゃんの前に立つと、ブランはどこからかとてもきれいなキラキラ輝くエメラルドグリーンのうろこを1枚取り出しました。

「これ、黒ドラちゃんに」

「えっ!?あたしに?」

「うん」

 黒ドラちゃんが手に取ってよく見ると、それはうろこのように薄く加工されたブランの魔石でした。とても薄くて、向こう側が透けて見えるくらいです。

「これ、ひょっとして新しく作ったっていう魔石?」

「うん。本当は取っておいて、もっと後で渡すつもりだったんだけどね」

「でも、ブランはマグノラさんにも交換で魔石をあげるんでしょう?ブランばっかりあげることになっちゃうよ」

「良いんだよ。黒ちゃんにもらって欲しいんだ。お祝いとして」

「お祝い?何の?」

「黒ちゃんの初鱗が取れて、少し大人になったお祝い」

「あ、ゲルードが成人のお祝いで、マントや魔石の杖をもらったみたいに?」

「そうだよ」

「わーい!お祝いっお祝い!あたし、お祝いされるの初めて!うれしい!ブラン、ありがとー!」

 黒ドラちゃんはうれしくて、うろこの魔石を持ってそこらじゅうを跳ね回りました。そして、頭の上にのせてみたり、わきにはさんでみたり、でも、いまいち収まりが良くありません。

「どこにしまっておこうかな?洞に入れっぱなしじゃもったいないよね?」

 黒ドラちゃんがドンちゃんとうんうん考えていると、ブランが黒ドラちゃんに言いました。

「あのさ、もし良かったら、初鱗の取れたところに付けてあげようか?」

「あ、そうか!それ良いね!」

 さっそくブランに背中を向けます。ブランがそっとうろこの魔石をおくと、魔石はキラッと輝いて黒ドラちゃんの背中の真ん中にピタッと収まりました。まるで最初からその場所に付いていたみたいに馴染んでいます。


「わー、黒ドラちゃん、そこだけエメラルドグリーンで目印みたいだよ!ピカピカでとってもきれい!」

 ドンちゃんがぴょんぴょんしながら拍手してくれます。

「本当?やったあ、キラキラしてる?」

 黒ドラちゃんはうれしくてみんなに背中を見せて回りました。鎧の兵士さんたちにも見せると、みんなでパチパチ拍手をしてくれました。背中の魔石からは、なんだか優しい魔力を感じます。

「ありがとう、ブラン、あたしこの魔石のうろこすごく気に入ったよ、お祝いありがとう!」

 ブランはちょっと照れながら、うろこの魔石のことを色々教えてくれました。とても薄いけど、しっかり魔力を込めた魔石だから、決して割れたり傷ついたり取れちゃったりしないこと。それから、もし黒ドラちゃんがブランに会いたいなあって思ったら、今度はゲルードに頼まなくても魔石を通してブランに伝わるんですって。

「すごいね、それ!」

 黒ドラちゃんとドンちゃんは顔を見合わせて一緒に大喜びです。ゲルードが後ろの方で「そんな便利なもの、あるならどうして私の杖には付与されていないのだ」とか、ブツブツつぶやいていましたが誰も聞いていませんでした。マグノラさんが「出来るだけ早くお花を植えるように」とゲルードに言うと、逃げるように帰って行きました。鎧の兵士さん達があわててガチャガチャと後を追っていきます。





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