16.王の帰還と増えた未来の可能性


【エルデイン王国首都トリスティナ・中央区1番地1-4(シエルリュミエール城 中庭)】



数日後、城の中庭に精霊廻廊を繋いでもらったクリスティーナ。

「もう少しゆっくりしてもいいんだよ?」とやけに食い下がるソレイユに不信感を持ちつつも、わざわざ未来を視るまではしてなかった。

だが城の者達の慌てようと安堵にこれは何かあるなと思い神眼を使った。

そしてクリスティーナはものすごくびっくりした。


「ソル!!」


ソルとは2人きりでない時のソレイユの呼び名だ。


「あーあ…バレちゃった。」


執務室にしてきた置き土産の事がクリスティーナにバレた事を悟ったソレイユは観念したように笑って言った。


「ソル、ちょっとここに正座。」


「え、ここで?」


「ここで。」


そう言ってソレイユを見るクリスティーナの目は完全に据わっていた。


「僕これでも一応この国の王さ──「いいから正座。」…ハイ。」


触らぬ神に祟りなしとばかりに大人しく正座する王の姿にあたりはざわついた。


念の為に言うがここは大陸一の超大国であるエルデイン王国の首都にある王城のど真ん中にある中庭である。 この城のほとんどの建物のほとんどの部屋でこの中庭が見えるようにと設計されている。

シエルリュミエール城の美しい中庭はとても有名で毎日専属の庭師が数名がかりでその美しい景観の維持に努めている。そのような背景があるので何も無くても人は多い。

周囲には庭師や警備兵はもちろん、王の帰還を聞いてかけつけた重鎮達も勢揃いである。なんなら今なら周辺各国の要人まで勢揃いである。

本人がやろうと思ってそうなったわけではないが、これでもこの3年間ずっと常に無表情でニコリとも笑わず、性格も冷酷非道でそれはそれは恐ろしい人だと思われていた。

その人が。

クリスティーナに怒られて情けないくらいに表情を崩し飼い主に怒られた仔犬のような顔でしょぼんとしているのは驚きを通り越してもはや恐ろしかった。


一体、居なくなっていた数日の間に何があったんだ!?


とガタガタと震え出すものまで出る始末。


「ソル。貴方がこの国の執務室に置いていった物を出しなさい。」


クリスティーナが低い声でそう言うが周囲は思った。

いや、王様を今そこに正座させたの貴女では?

どうやって出すんだと呆れた周囲が王様の次の行動を固唾を呑んで見守っていると王様は正座したまま精霊魔法で例の置き土産爆弾3つを手元に転移させてクリスティーナに渡したのだ。


「は?」


うちの王様あんな事できるの?


そう思ったのは何も警備兵達だけじゃない。普段あれほど仕事で接していたはずのこの国の重鎮達も国王の実力がここまでとは全く知らなかったのだ。


否、知らなかったは正確な表現では無い。隠されていたのだ。


そして、大半のもの達の驚きなどを完全に放置して、クリスティーナはそれを受け取ると息をするように無詠唱で魔法を使い、その書類や本を空中に置くような動作で浮かべたまま、優雅な所作で2つ折りにされた紙の中身を読み出したのだ。


「……ソル、もしかして貴方私が思ってる以上にこの国の事なんてもうどうでもよかったり…する?」


とても渋い顔をしてそう言うクリスティーナを見てもソレイユは顔色1つ変えない。


「数日前にも言ったけど、ティーナさえ無事ならこの国がどうなろうと知ったことではないかな。まあでも僕の復讐のせいで関係の無い民達の暮らしが脅かされるのは本意ではないからね。この3年、そのための法整備をしてきたつもりだよ。」


復讐!?今この人復讐って言った!?

この国の国王でしょ!!?


駆けつけていた1部の貴族たちが顔を青くする。


「……まあ確かに?、この法ができて困るのは無能な貴族くらいかしらね。ざっと未来視たけれど、将来国は割れる事になるけどそれだけで戦争とかにはならないみたいだわ。」


書類1式を見ながらクリスティーナが同意すると重鎮達の心は『やめてくれ!!』とひとつになった。


「いちおうそれなりに考えての事だったみたいだし許してあげるわ。正座やめてもいいわよ」とクリスティーナは怒りをおさめて言う。


「いや、ちょっと待てティナ!!なぜ将来国が割れる事が確定しているのにそれは問題ないみたいな態度なのかな!?」


次期宰相であるクリスティーナの兄ファウストが思わずそうつっこんだ。


よく言った!!


周囲の気持ちがこの時だけはひとつになった。


「あら、お兄様。お久しぶりですわ。心配なさらなくてもお兄様は優秀でいらっしゃるから職を失う事にはならないわよ?」


「優秀だと言ってくれるのは嬉しいが、これはそう言う問題ではないんだ。」


久しぶりの再会なのに、ようやくちゃんと妹が自分を兄と言ってくれたのに、感動もクソもない現状にファウストは別の意味で泣きたくなった。


「何がダメなのかしら?ソルわかる?」


「すまない、ティーナ。僕にもちょっとよくわからない。」


そう言って困ったような表情で笑うソレイユ。

仲良く揃って首を傾げる2人に周囲は内心で『お前ら嘘つけ!!』と全力でつっこんだ。


「俺達が悪かったですから、機嫌を直していただけませんか。今は貴方の指示で招待した各国の要人達も城にいるんですよ?他国に示しがつきません。」


「ふむ。それは知っているが?」


『何をいまさらな事を…』とでも言いたげな呆れ顔でファウストを見るソレイユにファウストの中で何かがプッツンと切れた。


「知ってるんでしたら、城の、中庭の、ド真ん中でっ、国王が王妃に怒られたからと言って正座なんてしないでください!!国王が何やってんだ!!」


よ、よくぞ言ってくれた!!


周囲の(主にこの国の重鎮達が)心の中でファウストを褒めたたえた。


「あら、お兄様。世の夫婦円満のコツは夫が妻の尻に敷かれる事らしいですよ?前に精霊達が教えてくれたの。」


「クリスティーナ、今はそう言う話をしているわけではないんだよ。というか精霊様…妹になんて事をふきこんでくれやがるんだ…。」


心做しかげっそりした様子のファウストに周囲の同情と憐憫の視線が集まる。


「大丈夫か?ファウスト。お前も数日休むといい。疲れがとれるぞ。」


とても心配ですという表情を作って言うソレイユにこめかみをぴくぴくさせるファウスト。


うちの王様って表情筋死んでなかったんだ。


ここ3年の冷えきっていた王宮の事しか知らない者達が口をポカーンと開けている。


「今のあんたにだけは言われたくないです!!」


今疲れている原因のほとんどは貴方と貴方のその勝手な仕事放棄と貴方の置き土産が原因だ、とファウストはこの3年仕事以外でソレイユとろくに話ができてなかった事も忘れて叫んだ。


「ファウスト、気持ちはわかるが少し落ち着け。とりあえず場所を移動するべきだ。」


先程から眉間を押さえて黙り込み、3人の会話を聞いていたルヴァインがそう言った事でなんとかその場はおさまり解散となった。



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お読み下さりありがとうございます。


当初、この物語は最初から終始こんな感じの頭空っぽにして読めるお話にする予定でした。それがどうなったかはまあ見ての通りです。

お話を書くって難しいですね。


明日からはまたお昼頃の1話投稿に戻ります。

よろしくお願いします。

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