第2話:幼馴染
ウィーン公爵家令嬢アレッタ、イルドラ王国王太子ズロル、ウッタル公爵家令嬢エクリュアの三人は幼馴染であった。
他にも上位貴族には同年齢の令息令嬢はいたが、王家と二大公爵家は別格で、将来の王妃を二人から選ぶとなれば、三人が同じ場所に居る事が多くなり、気性を知る事もできれば、ライバル視する者がいるのもしかたがなかった。
だから、ズロルが気が弱く優柔不断で、押しの弱い所があるにもかかわらず、子供好きな性格なのをアレッタが知っているのも当然だった。
同時にエクリュアは気が強く、積極的で負けず嫌い、勝負に勝つためならな平気で嘘をつく性格なのを知っているのも当然だった。
だから、エクリュアを挑発して、ズロルを誘惑させるように持っていくことも、二人きりになるように仕向ける事も簡単だった。
問題があるとしたら、ウィーン公爵家に生まれた者としての責任感だけだった。
二大公爵家としての面目を立て、家に損害を与えないようにする事。
特にかわいい弟、ジュリアスが将来困る事のないように、ジュリアスが手に入れられるはずだった利権や利益を失う事のないように、じっくりと時間をかけた。
そして最高のタイミングを計って、二人を陥れたのだ。
アレッタがそこまでやった理由、その原因は恋だった。
理も論もなく、ひと目見て全身に電流がかけぬけ、金縛りになってしまった。
寝ても覚めても、その男の事しか考えられなかった。
そこまで恋焦がれた相手がズロルならよかったのだが、人生そう都合よくはない。
せめて相手が下級でも貴族ならば、最初からズロルに嫌われるようにして、下級貴族と結婚する損を、前世の知識で補填する事も可能だった。
だが恋する相手が平民、しかも孤児となれば、自分自身に傷をつけて格を落とさなければいけないし、恋する相手の身分を引き上げていかなければいけない。
恋する相手の身分を引き上げるには、どうしても時間がかかってしまう。
その時間を稼ぐためにも、アレッタが婚約破棄で酷く傷つき、次の婚約を受けられない状態だと思わせなければいけない。
それ以前に、ウィーン公爵家と王家とウッタル公爵家が賠償問題でもめて、とてもではないが、アレッタに次の婚約を勧められない状態にしたかった。
そしてその通り、三家は一触即発の状態となっていた。
いや、ウィーン公爵家が激怒し、王家が平身低頭し、ウッタル公爵家がエクリュアの嘘がバレないように怯えながら、形だけ虚勢を張っている。
三家とも、外国の介入や侵攻を受けないように、細心の注意を払いながら、激しい攻防を繰り返していたが、アレッタだけは傷心を癒すためと言って、一人好きな事をやり始めた。
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