第3回 桃太郎

 時は現代。

 ここは、世界の中心※1であると、勝手に主張※2している、とあるところ※3


 仙人が住むといわれる山の麓に、年老いた夫婦が住んでいた。

 翁は山へ山菜や茸を採りに行き、老婆は川で洗濯をしていると、川上から桃がたくさん、流れてきた。これは異なこと。と思いつつ、桃からは甘い香りが漂ってくる。老婆はそれを、洗濯籠に拾い集め、家に持ち帰った。


 甘い匂いに誘われて、老婆はその桃をひとつ食べた。すると、老婆は見る見る若返り、若い娘に変貌した。


 驚いたのは翁である。


 山から帰ってくると、知らない娘が夕餉のしたくをしているのだ。

「失礼ですが、どちら様ですか?」

「ちょっと、女房の顔を忘れちまったのかい?」

「さて、ワシの女房は背の曲がった皺だらけの白髪ババアじゃが」

「誰がババアだって? その老いた眼をよーく開いて見るんだ」

 女が翁に近づいて、

「この垂れた丸い目、薄い唇、たわわに実ったこの胸」

 そう言って胸を寄せる。


「胸元のこの黒子。まちがいねぇ。若い頃のおまえだ。でも、いったいどうして?」

「さっき、川でこれを拾ってきた桃を食べたのさ」

 桃を見せる。

「ちょっと待ってくれ。桃を食べたら若返ったっていうのかい?」

「あたしも信じられないが、桃を食べたとたん、この身体になったんだ。まちがいな

い」

「信じらんねぇなぁ」

「この川の上流。山の頂には、仙人様が住むって話だ。きっとこの桃は、仙人様が食べるという、仙桃にちがいない。あんたも食べてみな」

 翁はしぶしぶ、桃を食べた。すると、ヨボヨボのお爺さんだった翁は、みるみるうちに、若い男になった。

「おお! これぞまさしく仙人の技」

「あんた、昔みたいにかっこよくなって」

「おまえこそ…」


 二人は抱き合って、キスをした。


 9か月※4後。


 夫婦の間に、玉のような男の子が産まれた。


「名前はどする?」

「仙桃から産まれたから、タオにしましょう」


 さらに18年後。

 タオは、桃のように丸くピンク色の、立派な若者に育った。


 ある日、タオは言う。

「お母さん、僕は鬼ヶ島へ鬼退治に行こうと思う」

「どうしたんだい、突然」

「お母さんは小さい頃、よく話してくれたよね。うちが貧乏なのは、鬼ヶ島の鬼のせいだって」

「そうさね。海の向こうは鬼ヶ島に住む、赤鬼、青鬼が、ここを産業ブロック※5しているからさ」

「僕、赤鬼と青鬼を退治して、産業ブロックを打ち砕いてくるよ!」

「それは頼もしい」


「お母さん、鬼退治へ向かうにあたり、お願いがあります」

「なんだい?」

黍団子※6を作ってください」

「そんなモン、英語に訳せないよ。とっとと行きな」




 タオは、村を出て、工業団地にやってきた。

「どこへ行くにも、まず金だ」


 タオはNEARLOADニアロード※7という、スマートフォンの製造工場で働きだした。

 しかし、働きだしてすぐ、工場は操業を停止してしまう。

 工場長曰く、

「海外への輸出が落ち込んでいるため、生産調整に入る。今日から当分の間、工場は休業とする」


 なんだそりゃ、と、寮の自室で憤慨していると、同室のブラウン色の犬は言う。

「まったく、これも全部、赤鬼、青鬼のせいだ」

「おい、今、赤鬼、青鬼と言ったか?」

「ああ、言ったさ」

「実は僕、赤鬼、青鬼をやっつけようと思ってるんだ」

「そいつは頼もしい。俺も鬼ヶ島の産業ブロックには頭にきてるんだ」

「一緒に、鬼ヶ島へ行って、赤鬼、青鬼をやっつけよう!」

「いいぜ! やっつけよう!」


「僕の名はタオ。君の名は※8?」

「ブラウンのイヌだ」


 身支度を整えた二人は、工場を出た。

「ところで、鬼ヶ島ってどこにあるだ?」

「海の向こうらしい」

「船に乗って行くか」

「そうだな」

「それじゃあ、海の街目指して行こうぜ」

「道わかるか?」


 イヌはNEARLOADニアロード製のスマフォを取り出し、道を検索した。

「あっちの方角だな」

「イヌは、スマフォ持ってるのか。いいなあ」

「タオは持ってないのか?」

「うちは貧乏でさ」

「元気出せよ。赤鬼、青鬼を倒して産業ブロックが解除されたら、買えるようになるさ」

「がんばるよ」




 とある海のある街※9に着いた。

 しかし、街は荒れ、人通りは寂しく、恐ろしい雰囲気が漂っている。

「なんだ、まるで戦争※10でもあったみたいじゃないか」

「お~い! 誰かいないか!?」

 声は、荒れた道並みに吸いこまれ、返って来る声は無い


 建物の陰から、二人を追いかける、猿のような影がある。


 やがて、警察が横一列になって行進してくる。

「なんか事件でもあったのな?」

 警察は、二人から離れたところで立ち止まると、手に銃を構えた。

動くなフリーズ! お前たちは完全に包囲されている!」

「それって、俺たちか?」

「イヌ。おまえなんかしたんじゃないのか?」

「タオ。お前の方こそ」

「なんか誤解があるのかも知れないな」

 タオは歩み出て言った

「ちょっと何言ってるかわかりませんね※11


 パン!


 音がして。タオの足元が弾けた。


 二人は踵を返すと、

「「逃げろ!」」

 一目散に逃げだした。


 二人の周りに、煙るを吹き出す球が飛んでくる。

「ぎゃーー」

「なんだこの※12目に染みる※13

鼻が痛い※14


 その時、二人の手をとる者がいる。

「こっちだ」


 二人はその者に連れられ、建物の路地へ逃げた。


 建物の地下に駆け下りて、地下街を抜け、さらにいくつかの建物を渡り歩いて、とあるビルの一室に三人は逃げ込んだ。

 グレー色の猿は言う。

「おまえら馬鹿か。警察にむかっていくなんてどかしてる」

「僕たちは何もしていない。話せばわかると思って」

「あいつらが俺たちの言う事なんか聞くもんか」

「いったい何があったんだい?」

「それはこっちが知りたいよ。今までは自由※15インターネット※16できてたのに、突然、海外のサイトにはつながらなくなる※17し。テレビやラジオ、新聞でさえ海外のことは一切、やらなくなるし※18


「「それって、普通じゃないか?」」


「DVDショップに行けば、世界中の映画やドラマが観られる※19じゃないか」

「それは海賊版だ」

「海賊版?」

「非合法に海外から持ち込んだ奴だ」

「ふーん。で、合法なものと、非合法なもので何か違いがあるのか?」

「まあ、あまり違いは無いかもしれないけど」

「だったら問題ない※20じゃないか」

「そうじゃなくて、海外の事が一切、わからなくなった※21んだ」


街の主※22に、文句を言いに行ったさ。そしたら、警察が突然、俺たちを捕まえだした」

「それは理不尽だ」

「抵抗すればいい!」

「したさ。そしたらあの白い煙を出す球※23を投げてきやがる」

「あれにはまいったな」

「それでも俺たちは抵抗した。こうして傘をさしてな※24

 パッと、傘を広げて※25みせる。

「それでも、奴らの力にはかなわなかった。気がついたら、仲間はみんな捕まっち

まった」


「これからどうするんだ?」

「どうするかな」

「どうだ、俺たちと一緒に、海外に行かないか?」

「海外に行ってどうするんだ?」

「赤鬼と青鬼をやっつけるのさ!」

「そうするとどうなる?」

「あ~、どうなるんだっけか? タオ」

「裕福になるんだよ」

「もしかしたら、海外でなにか良くない事が起こっているのかもな。わかった、俺も一緒に行くよ」


「ピンクの俺はタオ」

「ブラウンの俺はイヌ」

「俺はグレーのサル。よろしくな」




 三人は港までやって来た。


「鬼ヶ島まではどうやって行くんだ?」

「もちろん、船で」

 さっそく、船乗り場へ行く。そこには、行き先がまちまちな看板※26が立っている。


←[SOUTH KOREA, NOUTH KOREA, ROTHIA]


     ↑

[JAPAN, USA, EU(EXCEPT ENGLAND)]


[IRAN, SYRIA]→


[BRAZIL, MEXICO]

   ↓


「いったいどれに乗ればいいんだ?」

「ちょうどあそこ船が停まってる。直接、訊いてみよう」

 三人は、豪華クルーズ船※27に乗り込んで行った。


 そして、三人ともつまみ出された。


「話も聞かずつまみ出すなて、なんて失礼な奴らだ!」

「今度はあれに乗ってみよう」

 三人は、コンテナ船※28に乗り込んで行った。


 そして、三人ともつまみ出された。


「またつまみ出された!」

「しょうがない、自分たちで行ける船を探そう」

 三人は手分けして、船を探した。


「お~い! これなんかどうだ?」

 それはクルーザー※29だった。

「おお! 良い感じじゃないか」

「でも、誰が操縦するんだ?」


 今度は手漕ぎボート※30を見つけた。

「これなんかどうだ?」

「これなら行けそうだな」

 乗り込むタオとイヌ。


「ちょっと待て、鬼ヶ島まで何日かかるんだ?」

「さあ、1~2日ぐらいじゃないか?」

「その間の水と食料を用意しないと」

「さっそく買ってこよう」

「でも俺たち、あまり金持ってないんだよな」

「俺に任せとけって」


 サルは、略奪※31されたショッピングモール※32に入って行き、バッグヤードに四散していた物の中から、ペットボトルや食料を集めた。

「これを船に乗せて出発だ」


 犬が右のオール、サルが左のオールを漕いで、意気揚々と港を出発した。

 翌日、交代で朝から夜まで船を漕いだが、一向に島が見えない。

 さらに翌朝になって、食料と水が少なくなってきた。

「おい、タオ。ホントに島はあるんだろうな?」

「もちろん」

「島影なんか、全然、見えないぞ」

 その時、タオは船首に立つ。

見えた※33!」

「島か?」

「ホントか?」


 その時、後ろから、先のコンテナ船が近づいて来た。三人は気がついていない。

 コンテナ船はどんどん近づいて来て、とうとう三人の乗った手漕ぎボートを粉砕した、三人は、ピューっと飛ばされて、海に落ちた。

 コンテナ船の操舵室では、船長が双眼鏡で海を眺めている。

 一人の船員がやって来る。

「船長。問題が発生しました」

「なんだ」

「民間の小型ボートと衝突。ボートは大破。乗船者が海に投げ出された模様です」

「ただちに、救助せよ」

Yes sirイエッサー※34


 三人は、コンテナ船に救助された。

「大変失礼した。まさかこんなところに手漕ぎボートが浮かんでいるなんて、思わなくってね」

 三人はきょとんとしている。

「うん? 君たち英語はわかるかな?」


「この人なんて言ってるの?」

「わからん」

「でも偉い人みたいだよ」


「船長。どうやら英語は話せないようです」

「むしろ話が通じないのは好都合だ。ボートとはいえ、外国船と衝突したなんてことが知れたら国際問題※35になるからな」

「どういたしましょう」

「港に着いたら領事館に引き渡そう。それまでは、丁重※36にな。」

「Yes sir」


「ピンクとグレートとブラウンか。気味の悪い※37だ」


 コンテナ船には、「SILICONVALLEY EXPRESS」と書いてある。


 三人には、空いていた乗組員用の船室があてがわれた。二段ベッドが二つあり、テレビにゲームまである。

 サルは、二段ベッドの上に跳び乗った。

「やっほう。久しぶりにベッドの上で寝られるぜ」


「テレビまでついてる」

 タオは、テレビを付けた。テレビでは、世界のニュースや、ドラマ、映画、バラエティ番組が放送されている。

「なんだこれ? こんなにたくさんのチャンネルがあって、言葉はわからないけど、いろんな人がいろんなことしてる。初めて見るよ」


「Wi-Fiまで入るのか」

 イヌは、スマフォで動画サイトを見る。

 サイト名は[MyLoop※38

「こっちは世界中の音楽やダンスが見放題だぜ」


 食事も三食毎、日替わりで、トースト、サンドイッチ、フレンチトースト、スクランブルエッグ、ピッツァ、ホットドッグ、ハンバーガー、パスタにポテトサラダと、タオとイヌにとって、初めて見る彩ばかり。

「うまい!」

「うめー」

 イヌは、パンにソーセージ※39を挟んだモノを食べながら、

「うまいなこれ。なんていうんだ?」

「ホットドッグだよ」

「ホットドッグか。食べてると暑くなるよ」


 そうこうしているうちに、シリコンバレー※40に到着。

「どっちが鬼ヶ島だ?」

「街の人に訊いてみよう」

 ひとりの街人に話しかける」

「すいません、鬼ヶ島はどちらでしょう?」

「あ? なんだって? 英語じゃないとわからないよ」

「どうやら言葉が通じないみたいだな」

 タオは、身振り手振りで、頭に角を作ったり、島の形をジェスチャーしたりして説明した。


「なんかよくわかんないけど、観光ならあっちへ行ってみな」

 と、方角を指した。


「あっちへ行けばいいんだね。ありがとう」

 三人は、街人の指示した方向へ歩いて行った。


 途中、『Googol※41』というロゴを掲げたビルの前を通る。

「なあ、鬼ヶ島で検索したら、住所がわかるんじゃないか?」

 イヌがNEARLORD製スマートフォンで検索する。

「住所は出てこないな」

 サルは言う。

「別の検索サイトで検索してみたらどうだ?」


 途中、足跡に『f』の字を切り抜いたイラストのロゴを掲げた『Footprint※42』というビルの前を通る。

「SNSで訊いても、誰も知らないって」


 途中、リンゴを磨いているイラストのロゴを掲げたビルの前を通る。『Polisher※43』という会社らしい。

「そのスマフォ、壊れてるんじゃないか?」

「最新型に買い替えようかな」

「どこのメーカーが良いと思う?」

「なに言ってるんだよ。NEARLORD以上に良いメーカーなんてないじゃないか」


 やがて、遠くから人の歓声が聞こえてくる。

「なんだろう? 行ってみよう」

 そこには『Disney※44』の看板が。


「「「おお!」」」

「すげー」

「楽しそう」

「ちょっと入ってみようぜ」

「待てよ。僕たちの使命を忘れたのか? 鬼ヶ島の赤鬼、青鬼をやっつけるのが先だろう」

「それに入場料を見ろよ」

「高くてとても入れない」

「ここには、赤鬼、青鬼をやっつけてから来ようぜ」

「「おう!」」


 しばらく街の中を歩いていると、前に黒塗りの高級車が止まり、中から黒服の男たちが降りてきて、三人を取り囲む。

「お前たち、今まで何をしてきた?」

「お、俺らと同じ言葉だ」

「なに? って言われても」

「お前たちが、この国の産業企業※45に行ったのは、調べがついている。一緒に、来てもらおうか」


 男たちが三人を捕えようとしたとき、背後から、プラカード※46垂れ幕※47を手にした大集団※48が波のようにやってきて、三人を連れ去った。


 三人は、そこでひとりの雉と出会う。

「おまえたち、危ないところだったな。あれは特殊警察※49だぞ」

「特殊警察?」

「俺たち、警察に捕まるようなことはしてないぞ」

「おまえの持ってるスマフォ。NEARLORD製だな」

「ああ」

「それを持っているだけで、犯罪者扱い※50され、地球の裏まで追跡される※51ぞ」

「なんだって」

「代わりに、Polisher社製のhPhone※52を買え」

 雉は、白い筐体にレンズが8個付いたスマフォを見せた。


「でも、どこで買う? ここにはkonozamA※53はないぞ」

「そこのショッピングセンターで買えばいいさ」

 イヌとサルは、持っていたNEARLORD製のスマフォから、Polisher社製のhPhoneに買い替えた。

「これで犯罪者扱いされる恐れはなくなったな」

「地球の裏まで追いかけられることもな」

「ありがとう。君の名は?」

「グリーン色のキジだ」

「僕の名前は、ピンクのタオ」

「ブラウンのイヌ」

「グレーのサルだ」


「ところでキジくん。君たちは集団でなにをやっていたんだ?」

デモ※54さ」

「デモ?」

殺された仲間※55のため、警察の横暴※56を糾弾してやるのさ」

「でも、デモで警察組織が変えられるかい? 警察組織のボスを叩かないと」

「もしかしたら、そいつも鬼ヶ島にいるのかも知れない」

「どういうことだ?」

「僕のお母さんの話では、この世の悪は、全て鬼ヶ島にいる、赤鬼と青鬼のせいだって」

「それじゃあ、そいつらを倒せば、今後、俺たちの仲間が殺されることはないんだな」

「きっとそうさ」

「そうか…」


「どうだ。君も僕たちと一緒に、鬼ヶ島に行かないか?」

「鬼ヶ島に?」

「僕たちは赤鬼、青鬼をやっつけるため、鬼ヶ島を目指してるんだ」

「わかった。俺も一緒に、鬼ヶ島へ行こう。ところで、鬼ヶ島ってどこにあるんだ」

「それが検索してもわからなくて」

「悪い奴の住むとこだからな、きっとおどろおどろしい※57場所に違いない」

「ここで一番、おどろおどろしい場所と言ったら、ホワイトハウス※58だ」

「白い家か?」

「そうとも言う」

「その白い家はどこにあるんだ」

「ずーっと、あっちの方角だ」

 そう言ってキジは東の方を指した。


「歩いてどのくらいだ?」

「歩きだなんてトンデモない! 飛行機で行く」

「俺たち、そんな金、ないぞ」

「しょうがねーなー」


 キジとサルは、大きくて黒い楽器のケースを抱えて、航空会社のカウンターに並んだ。

 ケースの中からタオが言う。

「本当にこんなんで飛行機に乗れるんだな?」

「ああ。この方法で、とあるところから脱出した※59がいる」


 カウンターの手荷物預け場所に、楽器ケースを置く。

「イテ」

 受付の女性が不思議がる。

「イテ、ちょっとカウンターに腕、ぶつけちゃって」

 キジとサルは機内に乗り込み、楽器ケースに入れられたタオとイヌは、びくびくしていた。


 飛行機は離陸し、そして着陸する。


 空港の荷物受け渡し所で、楽器のケースを回収し、空港の外に出て、物陰で楽器のケースを開ける。

「だいじょうぶか」

 楽器の形に身をやつし、凍ったタオとサルがいた。




 ホワイトハウスに着いた四人。


「「「「ここがホワイトハウスか」」」」

「でも、ぜんぜん、おどろおどろしくないぞ」

「外見は奇麗だけど、中には鬼たちが巣くっているに違いない」

「さっそく乗り込もう!」

「ちょっと待ちな」


 誰かに呼び止められて、三人は振り返る。だが、そこには誰もいない。


「今、なんか言ったか?」

「いいや」

「あたしだよ。あたし」


 よく目を凝らすと、クリスタルのように透明な女性の姿があった。


「あなたたち、あそこへ何しに行くの?」

「もちろん、赤鬼、青鬼をやっつけに行くのさ!」

「あっはっはっはっは!」

 彼女は高らかに笑った。

「なにがおかしい」

「確かに、赤と青が戦ってるけど、どっちもどっちで決着はついてないけど、かまうだけ時間の無駄だから、止めておきなさい」

「僕のお母さんが言ってたんだ。故郷を苦しめているのは、赤鬼と青鬼だって」

「だから、赤鬼と青鬼を倒すっていうの?」

「そうさ」


 彼女は片手に焼け焦げた紙。片手にクレジットカードを出した。

「こっちの焼けた投票用紙※60と、こっちのお金。どっちが正しいと思う?」

「どういう意味だ?」

「よくわからないな」

「正解は、どっちもどっち。正しいとか、悪とか、そんなのはなく、青いのも赤いのも、みんな蜃気楼※61のようなものよ」

わけがわからないよ※62

「君は僕たちをからかってるのか?」

「見せてあげる」


 彼女は、自分の体を大きなスクリーンに変形させた。

 そこには、赤鬼と青鬼が、お互いを罵りあう醜い姿があった。


「これが、ここの正体よ」

「それじゃ、僕のところの産業ブロックは…」

「それもこの罵りあいの延長ね」

「この罵りあいを止める方法はないのかい?」

「ないわ」

「そんな…」

「世界中どこでも、票とお金は切っても切れない関係なの。産業ブロックならなおさらね」


「タオ、これからどうする?」

「イヌ、俺が知りたいよ」

「ねえ、あなたたち。赤と青の対立を止めたいのなら、手段が無いことはないわ」

「「「「なに!?」」」」





 大雨が降り※63川があふれ※64街が泥水に沈んでいる※65。ずぶぬれになったタオは茫然自失としている。

「最近、こんなこと多いな」

 そこへ、空からクリスタルが飛んできて、彼の手を引きあげる。

「なら、それを変えに行きましょう」

 タオを手にしたまま、空を飛んで、黒煙を吐く煙突の並ぶ発電所にやって来る。

「私の魔法で」

 クリスタルが手をかざすと、辺りは虹色の光※66に包まれ、黒煙吐く煙突に代わり、白い羽を持つ風力発電※67に変わった。



 森が燃え※68、迫りくる炎から木から木へ、跳び移りながら、逃げるサル。

「最近、山火事※69ばかりだ」

 そこへ、空からクリスタルが飛んできて、彼の手を引きあげる。

「なら、それを変えに行きましょう」

 サルを手にしたまま、空を飛んで、黒煙を吐く自動車が走る、高速道路にやって来る。クリスタルが手をかざすと、辺りは虹色の光に包まれ、黒煙吐く自動車は、電気自動車※70に変わった。

る。



 病院に運び込まれる、多数の患者※71たち。介護する人※72は疲弊し、ベッドに収まらない患者※73は、床に寝かされ、亡くなった人はビニールに包まれ、雑然と掘られた穴に※74葬られてゆく。

 埋められる人を見て、イヌが泣きながら言う。

「最近、こんなのばかりだ」

 そこへ、空からクリスタルが飛んできて、彼の手を引きあげる。

「なら、それを変えに行きましょう」

 イヌを手にしたまま、空を飛んで、虹色の光で包む。



 警官に撃たれているキジがいる。キジは飛びながら銃弾をかわす。

「だから俺はなにもしてないって!」

「フリーズ! この臆病者チキン!」

「おれはチキンじゃねぇ! 雉だ!」

 そこへ、空からクリスタルが飛んできて、彼の手を引きあげる。

「なら、それを変えに行きましょう」

 キジを手にしたまま、空を飛んで、虹色の光で包む。



 戦争をしているところの世界を飛んで、虹色の光で包む。人々は武器を捨て、戦っていた者同士が、笑顔で握手する。



 赤鬼と青鬼を、虹色の光で包む。

 罵り合いが止まった。

 と、思ったら、また罵り合いを始める。

「おまえみたいな赤いのは、クズだ!」

「おまえのような青い奴こそ、クズだ!


「あれあれ? あたしの言うことがきけない人は、こうだ!」

 クリスタルは、ふたりを虹色の縄※75つるし上※76げる。

「色なんて関係ないでしょ」

 両者は首から泡を吹きながら、ちいさくうなずく。

「あたしの言うことをきかないひとは、みんな、全員、おしおきよ※77



 キジのところも、サルのところも、イヌのところも、クリスタルから発せられる虹色の光で、みんな仲良くなる※78


 タオのところへやって来た。

 そこへ、虹色の光を降り注ぐ。村のひとたちは、幸せに満ちた、恍惚の笑み※79を浮かべて、タオとクリスタルの到着を歓迎した。

「どう? タオ」

「君のおかげで、世界が幸せになった※80よ」

「そうでしょう?」


 クリスタルは、タオを引き寄せ、キスをする。


「あたしにまかせておけば、世界はみんな、幸せよね」

 ウインク(^_-)-☆





























※こんな最後までスクロールして、気になった? 残念でした。意味が知りたかったら、ちょっとは自分でググれよな(^_-)-☆

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