6話 出港

 出港




「で、船はあるのかしら? いくら港町でも、船を貸してくれる人なんて」


「あてならあるよ。船は借りられないだろうけど。僕の機工、何の機工か話したっけ? 僕の機工は駆逐艦。まあ軍艦の中では小さいけど、と言うか、駆逐艦の中でも小さいけどね」


「え、そうなの? じゃあお願いするわね」


「やっぱり気がついてなかったんだね。けどいいよ。だけど、駆逐艦を出せる場所は限られてくるから、探してもらえるかい?」


「ええ。でもこの町中で出して良いのかしら?」


「う~ん、他の人に見られるのはまずそうだから、あっちの森を抜けた場所で出せそうな所を探そう」


私たちは町を南に外れ、森の奥で駆逐艦の出せそうな場所を探しに行くことにした。


森は鬱蒼としており、足元が悪く、雪が降っていたのか雪もあり、滑るし、足を取られるし、コケるしで、


「バランスが取れなくなっているわね。片手がないとこんなにも、体幹が変わるのね」


またこけた私を、皐月が腕を引っ張ってくれて、立たせてくれる。申し訳ないなぁ。


「しょうがないよ。腕の重さは自分の体重の6%なんだよ。それを失ったんだから、体幹も変わるはずだよ」


「いつもいつも、起こしてくれて、ありがとうねぇ。それはそうなんだけどね」


「それは言わない約束だよお爺さん。っと、海が見えたよ。あそこら辺なら船が出せそうだね」


「誰が爺さんじゃい。せめて婆さんにしてよ。確かにこれなら、深さはありそうね。でも、この高さは無いわ」


そう、所謂絶壁。その絶壁がずっと続いているわね。長く長く、高く高く。


「うん、これなら出せそうだね」


皐月は機工を前に出して、操作し始める。待つこと5分。


「よしここなら行ける! じゃあ出すよ」


「ええ」


「機工出港」


機工から、船が飛び出した。それは何事もなく着水。波もたたずにまるで最初から此処に居ましたよ? とでも言いたげに、浮いていた。


「じゃあ、僕は飛び乗るよ。その後で、この高さだと、橋みたいなのを架けるから、それを使って来てね」


「ありがとう」


あ、飛び乗った。すごいジャンプ力ね。でも大丈夫かな? 下見えない? 私高所苦手だから、下見えたら渡れないかも。


数分後に出てきたのはそれはそれは、見た感じ不安になるビジュアルでした。私は梯子を代用したであろうそれを渡り、船に乗り込み、


「式って、高所恐怖症だったんだね。ごめんよ、もう少し、下の見えないものを用意すべきだったね」


「言わなかった私が悪いのよ。それに、私の高所恐怖症はまだましな方だし」


「そう? 君がそういうのならいいけど、じゃあ船を出すよ」


へ、誰も操舵していないはずの船が動き出す。まあ、私の機工と同じなのだから、驚く場面でもないのだけれども、ビビるのはビビるわね。今は皐月の意思で動いている。簡単に言うと、脳波で動かしているの。私は、標準装着の、生まれた時に付けられる脳信号を飛ばす装置を、睦に改良してもらっている。多分、皐月も同じよね。だから、脳信号だけで、すべてが機工に繋がっているこの船を、動かせる。機工の方も、登録者しか動かせないようになっている。つまり、皐月の言う事しか聞かない船なのよ。

私たちは船の中に入る。椅子に座り、


「ふう、それで、あの後、どうなったのかしら? あなたのおかげで、助かったのかしら?」


「式が気を失ったタイミングが解らないから、何とも言えないけど、あの後、僕は、機銃を使って、あいつをハチの巣にしたと思ったんだ。けど、あいつは刀ですべてを斬り落としていた。弾丸をだよ! あり得ないよね! その後、あいつは何か通話が来たみたいで、僕の目の前で、通話しだしたんだ。僕はもちろん攻撃したよ。でも、すべて、刀でいなされたんだ。最終的には、僕は斧を飛ばされて、絶体絶命だったんだけど、僕を見下ろした後、勝負はお預けだ。我が主からの命令だ。良かったな。と言ってどこかに行ってしまったんだ。それで、僕たちは助かったんだ。その後に君を病院に運んだんだ」


「そうだったのね。ありがとう。でもあいつは、何で私たちを見逃したのかしら?」


「さあ、でも、ゴトの命令っぽかったよ。ゴト様とか、もうすこしで、とか、いえ逆らいません! 仰せのままに! とか言っていてからね」


「そう、成程。で、私たちは何処に向かっているの?」


「日本海を抜けて、日本に向かうつもりで、舵を取っているんだけど、途中で、さっき聞いた船に遭遇したら、その船に従おう」


「了解。じゃあ、私は少し寝て来るわね」


「うん、良いよ。じゃあ僕は艦橋に行ってくるよ」

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