第5話:奪還

「ああ、ああ、あああ、もっと、もっと深く」


 シルヴィアを助けた男は、王太子ガリウスの寝室に忍び込んだ。

 そこには濃密な淫臭と嬌声が満ちていた。

 王太子とイターリ公爵家令嬢ティエリアが激しく愛し合っていた。

 上下になり、激しく快楽を貪っていた。

 男はその姿を侮蔑の表情を浮かべてしばらく見ていた。

 好きで見ていたわけではなく、罠がないか確認していたのだ。

 だから安全を確認してからは素早く動き出した。


(王とぐるになってシルヴィアから奪った命は返してもらうぞ)


 心の中で報復を誓った男は、王太子とティエリアには認識できない素早い動きで二人に近づき、吸命術で二人から命数を奪った。

 五十歳を越えたようになっていた男が、見る見る若返って行った。

 王太子から十七歳分の命数を奪った。

 ティエリアからも十七歳分の命数を奪った。

 それによって男は十代後半の若さとなった。


(このまま気を失っていてもらう)


 男は意識を刈り取った二人を前に内心でつぶやいていた。

 男は十七歳程度の命数を奪った程度で許す気はなかった。

 全ての若さを奪い、シルヴィアと同じ苦しみを与えたかった。

 だがそのためには、警戒されるわけにはいかなかった。

 今王宮で騒ぎを起こすわけにはいかないので、気を失わせたのだ。

 男は急いでシルヴィアの所に戻った。


(今命数を戻してあげるからね)


 男は昏々と眠るシルヴィアを前に心の中でつぶやいた。

 男は自分が取り込んだ三十四年分の命数をシルヴィアに与え、若返らせた。

 だがそれでも、百歳弱の姿から六十代の老婆になっただけだった。

 六十四年もの命数を与えても、老婆のままのシルヴィアを前にして、男は思わず涙を流してしまっていた。

 五十代の姿になった男は、湧き上がる怒りが強くなるのを自覚していた。


(必ず元の姿に戻してあげるからね)


 シルヴィア眠りを妨げないように、心の中で誓った男は、急いで王太子の寝室に戻り、王太子とティエリアの二人から命数を奪った。

 四十歳弱の姿になった王太子から、十七歳分の命数を奪った。

 三十代後半の姿になったティエリアから、十七歳分の命数を奪った。

 それによって男は四十代の姿から十代後半の若さとなった。

 男は急いでシルヴィアの所に戻った。


(また命数を戻してあげるよ)


 男は昏々と眠るシルヴィアを前に再び心の中でつぶやいた。

 男は自分が取り込んだ三十四年の命数をシルヴィアに与え、若返らせた。

 だがそれでも、六十代の老婆だったシルヴィアが、三十代前半の姿になった。

 九十八年もの命数を与えても、ようやくここまできた。

 それでも、失われたシルヴィアの青春を取り戻すには、更に三十年近い命数を与える必要があった。

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