第4話:吸命術と与命術

「可哀想に、ここまで酷使されて、本当に可哀想に……」


 男はシルヴィアの老いさらばえた姿を見て涙を流していた。

 大陸に流れるシルヴィとパウロ王の悪しき噂を聞き、確かめに来たのだ。

 男から見れば、一国の国王がそんな悪辣非道な真似をするとは思えなかった。

 だが、彼の期待は見事に裏切られてしまった。

 彼が理想とする国王像とは全く違う、邪悪な王がこの国にはいた。

 彼とて幼子ではないので、現実世界の事、人間の邪悪さは知っていたが、国王ともあろう者が、これほど邪悪でいられることが信じられなかった。


「私の命を分けてあげるから、死ぬんじゃないぞ」


 この男には特別な力、能力があった。

 シルヴィアと同じように、自らの命を相手に与えることができた。

 しかもシルヴィアとは違い、激痛を伴わないのだ。

 余命いくばくもない、もう死の直前のシルヴィアを助けるためには、一気に数十年分の命を与えなければならない。

 だがそんな事をすれば、この男が絶命してしまう。

 しかし男は躊躇することなく、一気に三十年分の命をシルヴィアに与えた。


「どうやら危機は避けられたようだな。

 だったら次は復讐、いや、俺の事じゃないから復讐とは言わんな」


 シルヴィアは三十年分若返っていたが、それでもまだ老婆のままだった。

 神の呪いを討ち破り生命力を与えパウロ王を若返られるというのは、自分の命数年分でパウロ王を一歳若返らせることができる程度だったのだ。

 男の命を三十年分与えても、百歳を越える老婆を、百歳弱の老婆にできる程度だ。

 だから直ぐに死ぬ危険はなくなったが、シルヴィアを老化の苦痛から解き放つまでには至らなかった。


「さあ、お前達、この子を護ってやってくれ」


 男は亜空間で自由に遊ばせていた従魔達を呼び出し、シルヴィアを見守るように命じて、デイレン王国の王城に戻ることにした。

 そう、この男こそが、王城で棺桶に閉じ込められたシルヴィアを転移魔法で救い出し、安全な屋敷に隠したのだ。

 この男は、噂の真相を確かめようとデイレン王国の王都までやってきて、借家を借りて拠点とし、毎日王城に侵入して全てを見聞きしたのだ。


「この子から不当に奪った命を返してもらうぞ、パウロ王。

 いや、それだけでは足らぬ、ガリウス、ティエリア、アルバート、この子を苦しめた全員から命を奪い、この子を元の若さに戻す」


 二十歳の若さから五十歳の初老になった男は、人から命を奪う事もできるのだ。

 時代や国によって呼び方は色々あるが、エナジードレインとも呼ばれる、相手から命を奪い自らを若返らせる吸命術も使えるのだ。

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