第3話:生き埋め

 シルヴィアは生きたまま棺桶に閉じ込められてしまった。

 半死半生で意識を失っているとはいえ、あまりにも酷い仕打ちだった。

 誰にも見送られることなく、王宮から出るゴミのような扱いで、墓地管理人に押し付けられた。

 事もあろうに、ミケーネ伯爵家の墓ではなく、無縁墓地に埋められるのだ。

 だからこそ、墓地管理人は文句を口にする。


「なんだよ、心付けどころか、正規の報酬もなしかよ。

 街の費用で無縁墓地に埋めとは、ケチにもほどがあるぜ。

 てめえらのやっている事は、王都どころか国中で有名だよ、糞が」


 墓地管理人は、誰も聞いていないのをいいことに、国王や王太子、王家やミケーネ伯爵の悪口をブツブツと言い続けた。

 もっとも、誰かに聞かれて密告されたら命にかかわるので、口の中でだけブツブツと繰り返すのだが、それでも憂さ晴らしくらいはできる。

 夜中に呼び出され、アンデットが湧きだすかもしれない墓地に行くのは、慣れた管理人でも嫌なモノなのだ。


「本当に可哀想な子だぜ、他の国に生まれていれば大事にされたのによ」


 墓地管理人の言う通りだった。

 もしシルヴィアが他の国に生まれていれば、聖女として大切にされていた。

 いや、信仰の対象として、神の如く尊ばれていた可能性もある。

 少なくとも、国王一人の呪いを解くために使い潰される事はない。

 王侯貴族が大切に扱い、できるだけ長生きさせて聖女の力を発揮させただろう。

 利己的ではあるが、王侯貴族共有の聖女にしなければ、内乱が起きる。

 だが、デイレン王国だけは、国王が絶対的な力を持っていたのだ。


「どっこらせ!」


 たった一人で墓地を管理している男は、棺桶を丁寧には扱えない。

 アンデットになって出てこられないように、頑丈な作りになっている棺桶は、馬車から乱暴に落としてもビクともしない。

 一人しかいないので、両方で持って運ぶことなどできないのだ。

 それに墓地管理人は、中のシルヴィアは死んだと思っていた。

 だから、馬車から引きずり降ろして地面に落とした衝撃が、シルヴィアの致命傷になるとは考えてもいなかった。


「よっこいしょ」


 あらかじめ掘っておいた穴に、棺桶を蹴り落とした墓地管理人は、横に山となっている土をドンドンと棺桶にかける。

 アンデットになって出てこないように、できるだけ深く埋めるのが仕事だ。

 棺桶が馬車から落とされた時、墓穴に落とされた時、シルヴィアがこの二つの衝撃から生き延びたとしたら、生き埋めにされることになる。

 だが、運命はここにきてシルヴィアの味方になった。

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