統一歴14年7月26日
私は、今日久々にアリスの墓に行った。アリスの命日だ。あの女は最低最悪な女であったが、一度結婚した義理があるから、命日は訪れることにしている。
今思えば、アリスとの出会いが君との関係を完全に壊した。なんであんな下らない言葉に心が救われたと思ったのか分からない。それに、なんであんなにアリスの言葉を信じてしまったのだろうか。
アリスはことあるごとに君の悪口をしていたし、それ以外の令嬢の悪口も言っていた。いつも私はその話を聞いて、なんてひどい奴ばかりなんだと思っていた。アリスはこんなに心優しい少女であるのにと……。
でも、なんで私はアリスの言葉が本当であるかどうかの確認をしなかったんだろうかと今なって思う。しかし、あの頃の私は彼女の全てを信じるYESマンであった。それでアリスの言葉だけを信じて、私はどれほどの人々(君を含めて)を裁き不幸にしたことか。考えると心が張り裂けそうになる。無罪であった人がどれほどいたかわからないが私には彼女らを裁く権利はなかったはずだ。しかし、私は公爵という身分を盾に、多く人々を不幸にした。今になって気づくという甚だしく愚かなことである。君はよくその人々を庇っていたね。君のおかげで被害は最小限で済んだ。ありがとう。しかし、私は私が裁いた人々の家族や本人に償わければいけない。例え、公爵家が潰れることになっても。残りのわずかな人生を彼ら彼女らに使うことにするよ。もちろん君の家族にも償おうと思っている。
「公平さを欠く貴方に人を裁く資格はありません」
君の言葉だ。まさにその通りだ。返す言葉も出ない。相も変わらず君の言葉は正しい。
さて、君との婚約破棄後私とアリスはどうなったか話そう。君は興味がないかもしれないが、私がどのような愚かな結末を辿ったか知ってほしい。そして、嗤って貰えると嬉しい。
私とアリスはあのあとすぐに結婚することになった。私の両親が悪い噂を無理やり慶事で打ち消そうという打算でそういう運びにした。
私はそのとき、幸せの真っ只中であった。アリスも嬉しそうにしていし、これからどれだけ幸せな生活が待ち受けているのかと私は思いを馳せた。
しかし、すぐにこの幻想は打ち砕かれることになる。アリスは、私と結婚してすぐに浮気をし出したのだ。信じられないことに他の上級貴族を引っ掛けていつも侍らせていた。私はアリスに止めるように言ったが「私は逆ハー狙いなの!!」とか言う意味のわからないことを言い出した。今になってもその言葉の意味が理解できない。
私はもちろん怒り狂った。しかし、アリスは口を出さないでの一点張りであった。そう、何も変わらなかったのである。次第に私とアリスの仲は冷めていった。自分で手に入れたはずの幸せは虚構のものだったのだ。私もアリスに対する想いは薄れていった。
それで、ある事件が起こったのだ。アリスは隣国の皇太子殿下にまでちょっかいを出してしまったのだ。最初は、他国の公爵夫人ということもあってか皇太子殿下もアリスを苦笑いで済ましてくださっていたらしい。しかし、アリスはあろうことか皇太妃を悪く言ったのだ。皇太子殿下は途轍も無くお怒りになった。その皇太子はとても愛妻家な方であったのだ。あわや戦争一歩手前まで、事態は大きくなった。私はその場に居なかったが、アリスの取り巻きも手を貸したらしい。この件で私は両親と王室からお叱りを受けた。どのように落とし前をつけるのかと……。
私は、アリスと離婚することと公爵の持つ鉱山と一部の領地を売ったお金で隣国への賠償に充てることを約束し、なんとか隣国の皇室からお許しを得ることができた。この件で私の母は心労で倒れてしまった。その後亡くなった。父もその後病気を拗らせて亡くなった。両親には、本当に親不孝もので申し訳ないと思う。
それから私は全ての気力を失い、領地に篭る生活を送った。アリスは、その後取り巻きであった上級貴族子息の一人に刺されて死んだらしい。その子息もアリスの跡を追って死んだらしい。なんとも皮肉なことだ。
これが君と離れてからの話だ。なんとも滑稽な話だろう? どこかの二流作家が書いた劇みたいな話だ。あまりにもお粗末過ぎる話だ。でも私にはお似合いな結末だと思う。今思えば、こんな私だからこそ、両親は君のような優秀な人を私の婚約者に選んだと思う。
最近、もし君があのまま私の妻になっていたら、なんてことをよく考える。そんな妄想をして日々を過ごしている。気持ち悪いだろうか? だけど、もうそれしか心の支えがないんだ。ごめんとだけ言っとくよ。今日はここまでにしとこう。私はまだやることがあるからね。
親愛なるオレリアに捧げる。
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