第64話 フレデリックとエイヴリル様 ピクトリアンからの書類
「セシリアに、変な事を吹き込まないでくれますかね。母上」
気が付いたら、フレデリックが開いた扉に寄り掛かった感じで腕を組んでこちらを見ていた。
手に何か書類を持っている。
「あら。女性の部屋にノックも無しに入って来るなんて、いくら国王陛下でも無作法なのではなくって?」
クスクス笑いながら言っている。エイヴリル様は、本当に楽しそうにしゃべっている。
「自分の部屋なのですけどね」
フレデリックも半笑いだわ。こちらの方にやって来てるけど。
侍女たちが、慌てて席を作ろうとしているのを手で制して、私が寝ているベッドに腰を掛ける。
「仲が良いのね」
「仲良しですよ。だから。混ぜ返さないでください」
お互いにこやかなのに、なんだか会話が……。
「そう。じゃあ、なんでセシリア様はベッドに突っ伏して泣いていたのかしら?」
不思議ねぇって、言っている。な……なんでバレたの?
思わず自分の頬を触る。少し濡れている気が……。慌ててたから、そのままの顔でいたんだわ。それで、さっき触られて時に気付かれたんだ。
ふと、フレデリックの方を見ると、フレデリックも私の方をじっと見ていた。
「か……体がまだ辛くて」
「ウソはダメよ」
そう言って、エイヴリル様は私の口を指で制する。
そして、フレデリックの方を向いて、にこやかに言う。
「それで、何の御用なのかしら」
「いや……だから、自分の部屋に戻っただけで」
「まだお仕事が終わる時間じゃないでしょう?」
フレデリックは困った顔をしていた。
「母上。クリストフ・ピクトリアンがいなくなっても、まだオービニエの件は終わっていないのです。それにアダモフ公国の動きも分からないし。まだ自室居住区にいて下さいとお願いしていたでしょう? セシリアといい、母上といい、どうして俺の言う事を聞いてくれないんだ」
なんだかブチブチ言い出したわ。
「わたくしたち、同列にされてしまったわね」
本当に楽しそうだわ。エイヴリル様。
会話が飛んで、色々な事が有耶無耶にされていっている気がするけれど。
「あの……、本当に何か用事があって、ここに来られたのでは?」
先ほどのエイヴリル様では無いけど、まだフレデリックは勤務時間のはずだ。
外務大臣の件すら終わって無いのなら、その身はかなり忙しいはず。
「セシリア。これはなんだ? 説明して欲しいのだが」
そう言いながら書類の入った大きい封書を二通渡された。
一通はいかにも、公文証が入っていると分かる重厚な物。どちらも開封済みだけど。
ピクトリアン王国?
ソーマ・ピクトリアン国王陛下の署名がされ国印が押されている正式な証書が二通。
私、セシリアの『ピクトリアン王国の王族としての証明書』と『アルンティル王国の国王陛下との婚姻を許可する』というもの。
これでこの国で私に何かあったら、ピクトリアン王国は報復のために動き出す。
本当に私の後ろ盾になってくれたんだわ。
そして、普通の封書になっている方は、かなり分厚いけど。
その書類にはオービニエ外務大臣とクリストフ・ピクトリアンの繋がりの詳細とアダモフ公国がクリストフ・ピクトリアンと交わした取引と匿っていたという証拠。そして、こちらの上位貴族との繋がりまで……。
最後に、アルンティル王国のこの制度が出来た時のことが書いてあった。
今あるこの制度は、敗戦して他国の植民地になりかけた時に当時の国王が一部の上位貴族の反対を押し切り作った制度だった。
そして、この制度の中に、上位貴族の居場所は無い。
アダモフ公爵は、この制度の設立を機に、多くの上位貴族を従えて独立し、今のアダモフ公国を建国したのだという。
「こちらの書類はオービニエ外務大臣を追い詰めるのにお使いください。アダモフ公国とその繋がりのあるこちらに名の上がっている貴族は、今後の制度改革の為には、取り込む方向でお考えいただく方が」
「そんな事は、分かっている。この書類がなぜピクトリアン王国から送られて来たのかの、説明をしてくれと言っている」
フレデリックは、少し怒ったように私に言っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。