第56話 事件の後始末から外されたセシリアの覚悟

「すまなかった。ちょっとした嫉妬だ」

 嫉妬? 何で? それこそ意味が分からない。

 フレデリックは、私を抱きしめる。そうして私の耳元で

「フルマンティの投獄は、オービニエを油断させるための罠だ。フルマンティとは、ちゃんと打ち合わせ済みだ。投獄とは言っても、裏でも動いてもらっているけどな」

 と言った。室内の人払いしかしてないから、監視の気配がすごいものね。どこの手の者かしら……。

 そんな事を考えていたら小声で「こらこら、探らなくて良い」と言われてしまった。

 そしてお互いの顔が見えるように抱きなおす。


「そなたを信用してないわけではない。外交までさせておいて今さらなのだが、まだあまり国政には関わらせたくないのだ。今回も処刑者が出るだろうし、アダモフ公国の出方によってはもっと物騒な事になるやもしれん」

 フレデリックは、私の頭を撫でながらちょっと切なそうに言う。でもね。

「アダモフ公国の方の交渉はわたくしの仕事でしょう?」

「その交渉は俺がする。処刑もそうだが、戦争になるかもしれない交渉や決断を、まだセシリアにさせたくないのだ」

「でも、それがわたくしの」

「フルマンティも、あのギャバンですらそう言ったんだ。今回は聞き分けてくれないか。いずれ、嫌でもそういう決断をする立場にそなたを置いてしまうのだから」 

 そう言って、フレデリックは私を執務室から退出させた。


 いずれ……、今は私が子どもだから同じ立場になれない?


 そうして私は、大人たちの思惑で完全にオービニエ外務大臣とアダモフ公国の件から外されてしまった。


 私は自分の部屋に戻された後、この事態の事を考えてみる。

 さっきはすねた気持ちで、子どもだからと考えてしまったけれど。

 実際、私の年齢が大人でもアダモフ公国との交渉は難しかったのかしら。

 この国の王室と当時のアダモフ公爵との確執を私は知らない。知っていたとしても、よそ者に何が分かるのかと言われてしまうかもしれないわ。だけど……。


 ダメだわ。外務大臣とアダモフ公国に関しては、実際に何もできることが無い。

 婚礼の準備に入るのに外交は減らしているし。

 婚姻を結んで、王妃になっても外交はそのまま私の仕事になるらしい。


 っていうか、王妃になってしまうんだ。


 婚礼まであとどれ位だろう、4か月弱?

 それこそ、各国から王族貴族が、国賓として招かれてくるから日程は変更できないわ。


 私は長い溜息を吐いた。

 私は私の出来る事をしなければ……。

 

 フレデリックや、その信頼できる側近たちは、この事件を有耶無耶にする気はない。

 そして多分、クリストフ・ピクトリアンには勝てない。

 

 リオンヌ・ピクトリアンを愛さなければ、あんな風に失わなければ、彼はピクトリアン王国の国政を担っていたのだろう。

 でなければ、ピクトリアン王国とアルンティル王国、双方から逃げおおせるわけはない。

 しかもアダモフ公国とまで取引をして、多分彼に有利な条件を引き出せている。

 でないと、アルンティル王国の上位貴族とのつながりがまだ切れてないとはいえ、大国二国を敵に回すかもしれないような事……そう、クリストフを匿うようなことはしないだろう。

 それほどまでに、彼は優秀だ。


 たった一人のピクトリアン純血種に、この軍事大国アルンティル王国ですら勝つ術を持たない。だから、どの国もピクトリアン王国に手を出さないのだ。


 今、私の手の中にはソーマ・ピクトリアンが別れ際に囁いた言葉と共に隠すように細工され持たされたものがある。

 行動するのなら早い方が良い。

 これは、私にしかできない事なのだから……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る