第57話 初めての我がままなお願い

「フレデリックにお願いがあるのですが」

 私は最近にしては珍しく……本当に、久しぶりに私の部屋へ来ていたフレデリックに、おねだりするように言った。

 椅子に座ってくつろいで紅茶を飲んでいたフレデリックは、その紅茶をテーブルに置いて訊いてくる。

「珍しいな、セシリア。何か欲しいものがあるのか?」

「はい。この国に来て、ずっと諦めていたものです」

「諦めていたもの?」

 私の言葉にフレデリックは、眉をひそめる。


「はい。独りになる時間です」

「侍女もつけず、護衛も外す……ということか?」

 怪訝そうな顔をしながら訊いてきた。こんな大国に生まれ特殊な環境とはいえ、生まれながらに誰かしらが傍に控えているようなそんな生活をしてきたフレデリックには、理解してもらえないかもしれないけれど。


「わたくしの国では、当たり前にあった時間です」

 グルダナのような小国の侍女たちは人数も少なく、誰かの専属と言っても他の王宮内の仕事もしていた。その間は、悪く言えば放ったらかし、良く言えばこちらも息抜きが出来ていた。

「長くとは言いません。一時間……いえ、三十分でも良いんです。わたくしの居住区内のサンルームとか、そういう場所でボーっとお茶でも飲んでのんびりしたいだけですわ」

「そなた一人では危険では無いのか?」

「でも、それこそ王妃になってしまえば、絶対に叶えられない時間でしょう?」

 私は、首をかしげて言った。嘘じゃない。本当に独りの時間は欲しかった。

 無理だと分かっていたから、諦めていたけれど……。


「……まぁ、三十分だけなら」

 私の初めての我がままを、フレデリックは渋々ながらでも了承してくれた。

「ありがとうございます。フレデリック」

 私はにこやかにお礼を言う。この時ばかりはフレデリックの寛容さに感謝をするとともに、少し心が痛んだ。


 まぁ、クリストフ・ピクトリアンが来てくれない事にはお話にならないのだけれど。

 この前、私の前に現れたくらいだから、罠だと分かっていてもきっと来るわ。


 だって、クリストフにとって私は邪魔な存在だもの。

 こんな短期間で、アルンティル王国の外交を任され、手ごまのオービニエ外務大臣が潰しにかかり、ピクトリアンから何らかの取引をして戻って来た姫ですものね、私は。


 長く、この国においておけないと思っているはずだから……。

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