第55話 フレデリックの信頼と王宮にいる資格
「彼は違います。フルマンティ宰相からは、かおり草のにおいが漂ってきたことは、ただの一度もございません」
私は、フレデリックの執務室に着くなりフルマンティ宰相を牢から出すように進言をしていた。
「なぜ庇う?」
フレデリックは静かに私に問う。
そういえば、フレデリックは声を荒げたりしない。いつも、他の臣下に対してもそう。
この前、私が国王命令違反をした時も、怖い雰囲気にはなっていたけれど、静かに話していた。
「庇ってなどおりません。事実です」
今日のフレデリックは、怖ささえ感じさせない穏やかさだわ。
「フルマンティ宰相から一度たりともかおり草のにおいを感じた事は無いのです。つまりは宰相の執務室に持ち込まれたことは一度も無いということです」
「もっともらしい言い分だな」
信用してもらえない?
……私しかかおり草のにおいがわからないから、仕方のない事なのかもしれない。
フレデリックからしてみれば、誰からも、あのにおいはしていないのだろうから。
「信用……して、頂けませんか」
なんだろう。すごく……何かが流れ出てしまうような。
落胆……とでも、言うのだろうか。フレデリックから信用してもらえない、私への。
私に任せると言いながら、何か不都合があれば遠ざけられる。言い分を信用してもらえない。
フレデリックの所為じゃない。この前、クリストフが挑発していることを知りながら、自分の感情に負けて本音をさらしてしまった。
私、隙だらけだ。だから、子ども扱いされて、何も任せてもらえない。
そして、この問題は、私に信用がなくなった時点で、行き詰まる。
「信用?」
「かおり草のにおいは、物凄く濃厚になってしまえば別ですが、元々ピクトリアンの人間にしか嗅ぎ分けれません。それくらい、微量なにおいなのです。この王宮では、わたくし以外誰も感じられないでしょう」
「それで?」
「わたくしに信用がなければ、かおり草のにおいなど、単なる戯言となってしまいます」
フレデリックは、愛しいと言いながら、いつも私の事を試すような事をしている。
今だって、私の事を信用もしていない。だから、添い寝することもやめてしまったんだわ。
私には、フレデリックの『愛しく想っている』という意味がわからない。
私の事を悲観的だと言うけれど、本当に好きでいてくれるのか分からないのですもの。
「フレデリックは、わたくしを信用出来ると思って、このお城に入る資格があると思って、王宮内に入れてくださったのでしょう?」
私は自然と首を傾げる仕草をした。この国に来て初めての子どもぽい仕草かもしれない。
フレデリックは何か言おうと口を開いたけど、私はもうフレデリックの言葉を待つ必要もない。
「信用が無くなったわたくしはこの王宮にいる資格が無くなりました」
私はにっこり笑ってから、目を閉じる。
この王宮、この城の建物からは誰も生きて出ていく事は出来ない。
「どうか、ご処分くださいませ」
まだ私が西の建物にいた頃にクライヴが言っていた、お城……王宮内での処分は良くて幽閉。
悪ければ……死罪。
いっそ信用してもらえない、責任すら負わせてもらえない私など、死罪になってしまえばいいのに。
「そなたは、どうしてそうなのだ。目を開けてくれ」
私が目を開けると、フレデリックが私に目線を合わせるようにかがんでいた。
「セシリアは、命と引き換えにしてもフルマンティを助けたいのか?」
「フルマンティ宰相は、無罪です」
私はきっぱりという。これだけは、本当の事なので譲れない。
「それとは別に、フレデリックから信用をしてもらえないまま
「許さぬ。と言ったら?」
フレデリックが真剣な顔で言ってきた。だから私も真剣な顔で言う。
「それは、仕方のないこと。お心のままに……と言うしかございません」
私の返答を聞いて、フレデリックは溜息を吐いた。
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