第33話 セシリア姫が案じる、グルダナ王国の行く末

 どうしよう。

 私はまだ、自分の心を完全に隠し切れない。特に国を背負うフレデリックのような立場の人間には不可能だ。

 ただ、あの少年が母の関係者でグルダナの国王の臣下になっていたとしても、単純にピクトリアン出身者でも、正体が分かればグルダナを攻撃する口実を与えてしまう。


 グルダナで少年を見かけることはなかったから、単純にピクトリアンから来たのだろうけど。

 それでもグルダナの王妃の出身国だわ。

 大国がうちのような小国に、いちゃもんを付け攻撃を開始しても、周辺国は静観するだろう。


 そして、フレデリックはどんなに優しく見えても、軍事大国の国王だ。

 国内に甚大なる被害をもたらしている今回の事件に関わっている国を見逃してはくれないだろう。

 もしかしたら、見せしめにされるかもしれない。

 アルンティル王国に害をなしたら、どうなるのかと。



「それで? 今、セシリアは何を考えているんだ?」

 深夜、私の寝室のベッドの中、なかなか寝付けないでいる私に、添い寝をしてくれているフレデリックが訊いてくる。

「わたくしの出身国グルダナの行く末を考えておりました」

「行く末?」

「はい。多分、あの少年……に見える男性は、ピクトリアン出身です。母が持っていたピクトリアンの王族の方々の絵画に、あの男性と同じ服装の方々がえがき出されておりました」

「それで?」

 フレデリックが優しく先を促してくれる。


「ただ、ピクトリアンという国は、一度出てしまうともう二度と戻れぬ国。わたくしの母も30年前にグルダナ王国の王妃になって以来、ピクトリアンとの交流は一切ございません。ですから、あの男性がピクトリアンからいつ出てきたのかは知りませんが、わたくしの母を知っているとなると、30歳以上。40代から50代とみるのが妥当かと思われます」

「少年に、見えるのだろう?」

「わたくしと母は、よく姉妹と間違われます」

「……なるほど。寿命が長く、成長が遅いのか」

 ふむ、という感じでフレデリックが何かを考える素振りをしていた。


「ピクトリアン王国の事は、どんな事でも口外禁止になっております。血のつながった我が子か、もしくは自分の伴侶になる者にしか言ってはいけない事に……」

 フレデリックの事を自分の夫だと思っていることが伝わったのだろうか。私の体をギュッと抱きしめてくれた。


「そなたの心配は、我が国に害成す国がピクトリアン王国だとされた時の心配か?」

「はい」

 ふぅ~っと、フレデリックは溜息を吐く。

「あの国はもう、どうしようもないだろう? 我が国でも、戦争を仕掛けたらかなりの損害が出るぞ」

「ピクトリアン王国は、グルダナの王妃の出身国です」

「ああ、なるほど。関係国も武力で殲滅していたからな、前国王は……。俺はそんな事はしない。それにピクトリアン王国自体は関係ないだろう。国として我が国に毒草を持ち込む意味がわからん」


 フレデリックは、私を抱きしめたまま背中にまわした手で、背中をポンポンとしてくれる。

 まるで、母親が子どもを寝かせ付けるように……。

「いらぬ心配はするな。明日も女官の仕事をするのだろう? ゆっくりお休み」


 私を抱き込んだまま、暗闇の中遠くを見つめるような目をしているフレデリックが、少し怖い。

 そんな感じがしていた。

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