第34話 城下町のお忍び 診療所と教会と

「セシリア。また、城下町の方に行ってみないか?」

 しばらく王宮内を調べてみて収穫が無いと分かると、フレデリックは城下町へ行こうと提案してきた。


 城下町に行って、また最初に訪れた診療所に行ってみた。

 ここの診療所の医師たちは、私達がお忍びで来ていることを知っている数少ない信頼できる人物の一人だ。

 医師の話だと、もうどこも患者があふれていて、町中の診療所では数が足りないという。

 ここのにおいは濃厚過ぎて、さすがに医師やフレデリックでも、においが感じ取れるようだ。

 私が全く平気なのは、ここのにおいは一度体内に取り込まれて患者の口からのもので、すでに無害化されているから。


 私は、この診療所の医師に気になる事を訊いてみた。

「患者さんたちは、どのようにこの……葉っぱを摂取しているのですか?」

「直接口でんだり、あとは、乾燥させて煙を吸ったり……と言う感じですね。中毒性が高いようですが、どこで、中毒になっているのやらです」

 

 どうも、最初から毒草を摂取して中毒になるわけでは無いらしい。

「患者さんの共通点は無いですか? 例えば、このお店を利用しているとか、利用している施設とか……」

「ああ。そういえば、貧困層向けの炊き出しをしている教会の利用者が多いな。そこの職員も含めて……。ですが、教会ですからねぇ」

「ありがとうございます」


 私と医師の会話をフレデリックは黙って聞いていた。

 診療所から出ると、

「次は教会に行けばいいんだな」

 と溜息交じりにフレデリックが訊いてきた。


 隠していた馬にまたがり、二人で教会まで急いだ。

 今日は炊き出しの日ではないらしく、教会内は閑散としている。

 とりあえず中に入ると、私からしても微かにあの毒草のにおいがした。

 教会は誰でも立ち寄れるように、扉が開け放たれている。

 換気も充分に出来ていることだし、このくらいなら大丈夫だろう。


 私たちは、とりあえず教会内のミサで使う長椅子の一つに座り、形ばかりのお祈りをしていた。

 その内、奥から神父さんが出てくる。

「ようこそ、敬虔けいけんなる我が兄弟姉妹よ」

 教会にお祈りしに来た人たちへの決まり文句だ。神様の前では、身分差などなく、みんな兄弟姉妹だという。


「俺は不信心でな。それではダメだと、妹からせっつかれてやって来た次第だ」

 私の頭を撫でながら言っている。確かに、神など信じてなさそうだけどね。

「それはそれは、お嬢さんは我らが妹として、誇らしい信心の持ち主なのですね」

 にこやかに神父さんが言ってくる。

「ありがとうございます。お恥ずかしい限りなのですが」

 国が変わっても、この辺のやり取りは変わらない。


「神父様は、貧しい方々にも炊き出しや、施しをお与えになる人格者だと伺って、わたくしにも何かお手伝い出来ないかと思ったのですが」

 そう言うと、神父様は、いやいや、そんなことは……と謙遜しながら

「今日は、あいにく炊き出しの日では無くてね。週に二日ほどしか出来ていないのが現状なのですよ」

「まぁ」

「それでも、以前は二週に一度しか出来ていなかったから、ずいぶんとマシになった方なのです。お城の……あるお方が、多額の寄付を下さるようになって」


「ほう。それは信心深いことだな」

 フレデリックが口を出して来た。

「ええ。こちらに来るのは、お使いをしているという少年ですが、彼やそのお城の方の信仰心にも頭が下がるばかりの思いですよ」

「少年?」

「少年と言っても、もう成人近いのかもしれませんけどね。私よりも背が高く、細身の少年です」


 …………当たりかな?

 とりあえず、フレデリックが手持ちのお金で少しばかりの……庶民がするのに不自然でないくらいの、金額を寄付して私たちは教会を出た。

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