第32話 多すぎる護衛と言えない事

 フレデリックから、『囮になれ』とは言われていないけど。

 通常配置の近衛騎士以外にも隠れるように護衛が配置されている。

 そして私のすぐ後ろにも、部屋を出た瞬間から護衛が付いてまわっている。

 鬱陶しい……じゃ無くて、意味が無い。この状態では、王宮に少年は近付きもしないだろう。


 王宮内であの毒草のにおいもしなくなっていた。

 町の方では患者が増えているという報告が入っているのに……。

 私たちがグズグズしている間に、中毒患者が増え毒草が浸透していく。


「護衛を外してくださいませ」

 私は、フレデリックに進言していた。

「危ないから、ダメだ」

「わたくしのすぐそばにいる護衛。隠れていても、気配ですぐにわかる警備。そんな中で誰が侵入して来るでしょう」

 私の言葉にフレデリックは黙り込んでしまった。そして……

「それでも、護衛は外せない」

 意外とかたくなだわね。


「それは、わたくしが中から手引きしているかもという疑念があるからでしょうか?」

 臣下の間では、そんな噂も立っている。

 さすがに次期王妃の噂話は不敬に当たるので、表立っていう人はいないけれど。それでも、そんな噂がひそやかに流れてしまっているという事は、相当疑われていると言っても良いだろう。


「誰から聞いた?」

 フレデリックが少し不快感をあらわにして訊いてくる。

「誰からでもございませんわ。誰からともなく、聞こえてくるのです」

 ピクトリアンの少年にあってから、私の感覚は研ぎ澄まされている。本来、聞こえるはずのないものまで聞こえてくるのだ。


「それで?」

「わたくしは、手引きなどしておりません。信じて頂けるかはわかりませんが」

「だろうな。くだらん噂話だ」

 フレデリックは、この噂をすっぱり切り捨てた。

 もう少し質疑があると思っていたので、私はきょとんとしてしまう。


「みんな忘れておる。この問題はそなたが国内に入る随分前からあっているという事を。

 前国王の時代はもとより。今回の件だけに絞っても、もう三年も経っているのに」

 そんなに?


「前回と同じだな。この手の物は、貧しい層から浸透していく」

「そうなのですか?」

「お金欲しさに、手伝いや売人をするからな」

「でも、この国の福祉は充実しているのに、貧困なんて……」

「どこの国でも、働かない奴は一定数いるのだよ。我が国の福祉は、働いていることが前提だからな。そして、楽をして大金を手に入れようとする奴もいる」

 それは……そうか。そうかも。


「ああ。話はそれたが、そなたを信用していないわけでは無いのだよ。ただ、気配が分かるというのは……」

「天井の右上に一人、左に二人。後方柱の陰に一人。テラスに二人隠れてます。廊下まで言いましょうか……って、いうか多すぎませんか?」

「……すごいな」

 フレデリックは、純粋に感心しているようだった。

「今のは侵入者の少年にもわかると思います」

「少年……なのか?」

「容姿は……です。ただ、容姿通りとは限りませんが」

「どういう事だ?」

「顔に幼さが残っているから少年だと思っただけです」

 ピクトリアンの純血種であれば、見た目通りの年齢では無いと思う。子どもの頃の成長速度は少し遅い程度だが、15歳を超えると本当にゆっくりとした成長になる。

 私はハーフなので、多分15歳を過ぎても少し遅い程度の成長になるだろうけれど、母はよく私と姉妹に間違われる。

「ふ~ん?」


 なんだか、隠し事を一瞬で見透かされた気がした。

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