第20話 城下町へ行こう

 私の体調が良くなるまでは、フレデリックの訪問もなく、のんびり過ごしていた。多分、アンあたりが報告をしたのだろう。体調が良くなった途端、大きな包みを持ったクライヴを連れてフレデリックがやって来た。


 部屋付きの侍女たちは、予告なく現れた陛下に慌てて部屋を整えている。

 私も、立ち上がり礼を執った。

「そのままでかまわん」

 侍女たちの動きを手で制して、フレデリックは私の横に来た。

「姫も座りなさい。体の具合はもう良いのかね」

「はい。ありがとう存じます」


 まだアンとセルマ以外の侍女もいるので、お互い型通りの挨拶しかしない。

 クライヴは、侍女たちに退出するように命じたので、侍女たちはするすると下がって行く。

 ただ、アンとセルマだけは残っていた。



「さて、着替えねばな」

「へ?」

 突然のフレデリックの言葉に、私が戸惑っている間に、クライヴは包を開けて二人分の衣装を取り出している。

 どう見ても、一般庶民が街に出かけるような清潔だけど、質素な服。

 なにか、懐かしいような気もするけれど。


「さぁ、セシリア様はこちらで」

 アンとセルマからいつもの召し替え部屋に連れていかれる。

「え? なんで?」

 私が戸惑っていると

「協力してくれるのだろう?」

 とフレデリックが言い

「本日は丸一日、お忍びで街に出てもらいます」

 とクライヴも言う。

 

 アンとセルマはテキパキと私の着付けや髪を整えてながら

「私たちは、今日一日お二人の身代わりを致します。ですから、後の事はお気になさらず存分にお役目をはたしてくださいませ」

 と言ってきた。どうやら、事情を知っているようだわ。


 私の準備があらかた終わると、セルマがフレデリックの髪を整えに向かう。

 自分の姿を鏡で見たけど、やっぱりこの服装に整った髪はおかしい気がする。


「セルマ。陛下の髪、整えなくて良いわ」

 私の言葉に、みんなきょとんとしてしまっている。

 私は自分の髪もリボンを外して、手櫛でポニーテールにした。

「城下町に出るのに貴族じゃあるまいし。髪の毛なんか適当にしているものよ」

 そう私は言って、フレデリックの髪もぐしゃっとしてから前髪もおろし手櫛で整えた。

 前髪をおろすと年齢より若く見えて少し可愛い。童顔なのかな。


「今日は俺の事はフレッド兄さんと呼ぶんだぞ。セリア」

 フレデリックは、そう言ってきた。私の偽名はセリアと言うらしい。

 呼び間違えたり、聞いても反応しなかったりしないように、本名に近い名前にしたのだというけど、私なんて本名から一文字消えただけだわ。


 まぁね。一国の王様とその婚約者が二人連れ立って、城下町をブラブラしているなんて誰も思わないでしょうけどね。

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