第21話 王様と城下町のデート? いいえ、調査です。

 まさかアルンティルに来てまで、城下町を歩けるとは思わなかったので嬉しかった。

 やっぱりグルダナよりはるかに大きい。

 市場はすごく盛況だし、少し外れたところにある農地も牧場ものどかで平和な感じだわ。

 職人さんたちや酪農に携わっている人達にまで、手厚く福祉が行き届いているのには驚いた。


 子どもも、私と同じ13歳の子たちはまだみんな学校に通っている時間なので、年齢を訊かれたら16歳とう言うようにと言われた。

 学校も、診療所の費用も無料だ。

 ちゃんと働いて、少し高いけど税金を払えば老後も国が面倒を見てくれる。


 グルダナのような小国には無い制度だ。

 そんな夢のような生活なのに、それでも毒草に手を出してしまうのだろうか?


「ここが王都の端っこだ」

 不意にフレデリックから声を掛けられ前を見た。

 国境のような石造りの外壁に門がある。門番が、入ってくる人達をチェックしていた。

 今まで周りが見えていなかったらしい。馬を降りてからは、手を繋いで歩いていたから大丈夫だったようだけど。


 ここから先は、同じ国でも貴族の領地が広がっているんだわ。私はお国入りをして、領地を通って来たけれど、王室の紋章が入った馬車に乗っていたので素通り出来た。


 ビュッセル家は、ここの通行許可を出す仕事も任されていた。

 だけど、その後の調べでビュッセル家もお金で動いていただけだと分かって、とりあえず城下町を見てまわる事にしたのだ。


「さて、セリア。お腹すかないか?」

「……そういえば」

「屋台で何か見繕って食べよう」

「わ~い! 兄さん大好き」

 門をずっと見ていたら、門番から不審そうな顔で見られたので、世間知らずの妹を兄が連れてまわっている。という、演技をしたのだけど。いや、本当にお腹すいたし……。

 とりあえず、捜査もかねて市場に引き返したのであった。


 昼食をとり、私達は診療所にも立ち寄った。

 まだ、診療所は毒草の中毒患者で溢れかえっている。どの診療所も同じ状態だと医師は言っていた。

 患者さんがいる病室は、どこかでいだことのあるような独特のにおいがしているが、誰も気づかないのかな。

 何軒か診療所を見てまわった後、私達は焼き栗を食べながら露店が並ぶ道を歩いていた。

 お行儀が悪いと思う。グルダナでだって、こんな事したことはない。

 

 もう学校が終わる時刻らしく、私と同じくらいの子どもたちも目立ち始めた。

 ちょっと先を見ると、女の子たちが集まっている露店がある。

「あの……フレッド兄さん。あの店に言っても良い?」

 だめかな? やっぱり……という感じで訊いてみた。

「ん? ああ……行ってくるがいい」

 思わぬ許可が出て、私は小走りで行ってみる。


 そこには綺麗な細工の装飾品が並んでいた。

 指輪や髪飾り。はめてある宝石は偽物だけど、とても綺麗だわ。

 他の女の子たちと一緒に、気になる物を手に取って見ていた。


 緑色の加工された石がはめ込まれてある金色の髪飾りを手に取る。

 きれいだわ。金もメッキだし、石も偽物だと分かっているのに、とても綺麗で可愛い。

「気に入ったのか?」

 いつの間にか追いついて後ろに立っていたフレデリックが訊いてくる。

「ええ。金のところの細工がすごく凝っているの」

「ふ~ん」

 さして興味もない風に言って、店の主人に書いてある金額を渡しながら

「これをもらおう」

 と言った。

「へい。毎度」

 店の主人はさっさとお金を受け取っている。


「わ……わたし、そんなつもりじゃ」

「安物だからな。今度、それと同じものをエメラルドと金で作らせよう」

 私の耳元でボソッと言っている。

「とんでもないです。これだって、もったいないのに」

「どうして? そなたは、私の妃になるのに」

 声が低くなっている。しゃべり方も公の場でしゃべるような……。


 身を固くしていたら、パッとフレデリックが私から離れた。

「まだ、宝石には興味ないよなぁ。さすがに……。でも、それは素直に喜んでくれると嬉しいけど」

「ありがとう」

「よしよし。お兄さんが着けてあげよう」

 持っていた焼き栗の袋を私に預けると、器用に私の髪をちょちょいと結って、さっき買った髪飾りを着けてくれた。

「良く似合ってる」

「ありがとう」

 なんだか、口がうまい。

 いや、口下手では外交は出来ないのだろうけど。


「じゃ、そろそろ戻ろうか」

 もうそんな時間なんだ。楽しい時間はあっという間だわ。……じゃ、なくて。

 今日はそんなに収穫が無かったのではないかしら。


 収穫と言えば、診療所のあの独特のにおいだけ……か。

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