第17話 セシリア姫の恥じらい

 クライヴが出て行った後も、フレデリックはお部屋に残っていた。

 なんだか、そんなにじっと見つめられると恥ずかしい。

 そう思って、つい掛布を上にあげ顔を隠してしまっていた。


「セシリア。俺が怖いのか?」

 心配そうな声がしている。って、掛布を下げようとするのは止めて欲しいのだけど。

 掛布から出た私の顔は、今、真っ赤に染まっているはずだ。

「また、熱が上がってるのか?」

 立場的に言えないけど、お顔を近づけるのはやめて。


「陛下。その辺にしてあげて下さいませ。セシリア様は、恥ずかしいのでございます」

「恥ずかしい? 毎夜、同じベッドに寝ているのにか?」

 何を今さらという感じて言っているが、恥ずかしいものは、恥ずかしい。


「セシリア様はまだ13歳。大人の女性ではございません。かといって、子どもかと言われれば、そうでもございません」

「アン。俺にも、わかるように言ってくれないか?」

 そんな抽象的な事を言われても分からん。と、ばかりにフレデリックはアンに訊き返していた。


「日々、子どもから大人の女性へ成長しているのでございますよ。昨夜何があったのか、このアンには、わかりかねますが。陛下の事を男性として意識し始めたのではないでしょうか」

 フレデリックに、にっこり笑って言っているアンが怖いわ。

 『うちの姫に何してくれたのよ』って、副音声が聞こえる。

 もしかしたらこの王宮内って、女官や侍女たちの方が国王より強いのでは? と、クライヴやアンを見ていたら錯覚してしまうわ。


 フレデリックもその事に気付いたのか、しばらく絶句した後、気を取り直したように咳ばらいをして指示を出す。

「まぁ、よい。これから姫との内密の話がある。夕刻までは下がっておるように伝えよ。それまで、この階の立ち入りも禁ずる」

「かしこまりました」

 アンは、フレデリックの指示通り、退出していった。他のお部屋に詰めている使用人たちも下がらせているのだろう。しばらくすると、完全に人の気配が消えてしまっていた。



 フレデリックは、ベッドに腰を下ろし、掛布を引き上げて顔を隠している私に向かって言う。

「そろそろ顔を見せてはくれないだろうか?」

 掛布の上から顔を撫でられて、私は少し顔を出した。

 心配そうにしているフレデリックの顔が見える。

「熱はまだあるな。最近は、例の件もあって忙しくてな。なかなか一緒にいてやれなくて、すまなかった」

「い……いえ。それは、仕方ない事ですし……」

 掛布がなくなったので、直接手が私の頬に当たっている。

 フレデリックの手は大きくて少し冷たい。


 頬を撫でられ、じっと見つめられている。こんな経験初めてで、心臓が持たないと思った。

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