第4話 アルンティル王国への道中

 アルンティル王国からの縁談が来てから旅立つまでの一か月、私は楽しく過ごした。

 お姉さまともよく遊んだし、王太子になってから普段会う事も無くなっていたお兄さまは、馬に乗せて遠出もしてくれた。三人で城下町にも遊びに行ったわ。

 お母さまや公務で忙しい父王も、家族団らんの時間を作ってくれたの。

 本当に私は、美味しい物を食べ、行きたいところへ行き、笑って過ごすことが出来た。



 自由に出来る最後の日に、あの思い出のお花畑に一人で行ってみた。

 城内の手入れされた名のある花ではなく、黄色や白のお花が満面に咲き乱れる風景は昔とちっとも変わらない。

 夢だったのかもしれない出会い。お顔も覚えてないのに、金髪がキラキラとお日様に透けて綺麗だった……なんて、そんな事ばかり覚えている。


 私の頬を涙が伝うのが分かる。だけど、拭う気も起きなかった。


 本当にね。バカなのよ、私って。

 実在するかどうかもわからない、あの人と一緒に暮らせたらと思うなんて。



 

 そうして今、私は馬車に揺られアルンティル王国へ向かっている。

 侍女……もしかしたら、我が国にはいない女官かもしれないけれど、その女性と一緒の馬車だ。

 周りを大勢の騎士が固め、他三台の馬車には侍女たちや迎えに来た使者殿も乗っている。

 傍目からみたら仰々しい感じがすると思う。


 身一つでと言われた通り、侍女の同行はおろか何一つ持ち出すことが出来なかった。

 変なものを持ち込まれたら困るかららしい。失礼な話だとは思うけど、過去にそういう事があったのかもしれない。毒や武器を持ち込まれたり、刺客が姫の同行者に紛れ込んでいたり。


 衣装もあちらからやって来た侍女たちが召し替えさせてくれた。

 濃いピンクの、レースがふんだんに使われているドレスを着せられ、髪にも同じ色のリボンを付けられた。濃いピンクは私の淡い茶色の髪に映えてはいたけれど……。


 それにしても、私の目の前に座っている女性は少し顔がきつい感じがするけど美人さんだと思う。金髪の髪を後ろで一つにまとめ上げ、隙が無い感じだわ。歳は20代半ばってところかしら。

 名前は……確か、ジェシカ・クライヴ。


「ジェシカ・クライヴさん。訊いても良いかしら」

「わたくしの事は、クライヴとお呼びください。質問は、わたくしのお答えできる範囲でしたら構いません」

 私の問いかけに、ニコリともせずクライヴは言う。

「では、クライヴ。わたくしの縁談の……。その国王陛下はおいくつなのでしょう?」

 そう、こんな事を訊かなければならない程、お相手の情報が全く伝わって来ていない。

 そういえば、名前すら聞かされてない気がする。


「フレデリック様のお歳ですか? 28歳ですね」

「28歳……ですか」

 フレデリックって言うんだ。28歳って事は、私と15歳も離れているのね。

 ま……まぁね。そんなもんよね。父王の所には、30歳近く離れている側室もいるくらいだから。


「他はよろしいですか?」

 事務的にクライヴが訊いてくる。その顔からは、何の感情も読み取れない。

 ただ、淡々と言っているだけのような気がする。

「ええ。ありがとう」


 馬車の外から見える景色が自然の物から、手入れされた森へと変わって行くのが分かる。

 もう、アルンティル王国が近いという事だろう。

 国境の壁と門が見える。

 王族専用の馬車は幾度かの、門をそのまま素通りしていった。


 国内に入ると、王族専用……では無いだろうけど、高級そうな宿屋に泊まって行く。

 そうして、グルダナ王国を出て二か月半。やっと、王都にある城門の前に着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る