第5話 お城の西の建物
城門を入ると、そこにはまた田園風景があった。
小川があり畑がある。その更に奥には、牛や鶏が柵の中にいるのが見えた。
お城の敷地内と言うよりは、貴族の領地のようだ。
貴族の領地と違うのは、お店が無いことと、田園地帯の向こう側に立派なお屋敷がたくさん立ち並んでいるくらいかもしれない。
その風景の真ん中に、また城壁がありお城を中心にして大きな建物が四つ、取り囲むように建っていた。
「セシリア様には、まずは西の建物に入って頂きます」
最後の城門を馬車がくぐった時に、クライヴが説明を始めた。
「西の建物?」
私は思わず訊き返す。
「はい。周りを取り囲むように建っている建物にはそれぞれ役割があります。まずは東、側室方のお住まいです。そして、南は国王陛下のお子様方。北は召使や使用人、側室様方の侍女たちですね。そして、西の建物は新しく入った方々が一時的に住まう建物です。ですから、将来王妃になられる方から新人の召使まで、我が国の制度に慣れるまで西の建物で暮らすことになります」
「お子様方は、生まれてすぐに南の建物に入るの?」
「ええ、そうです。暗殺されないように、誰の子どもかもわからないようにしています」
驚いた。そんな事って……。
「ああ。王妃様がお産みになった王女だけは、価値があるのでわかるようにしています」
「赤ん坊に価値って」
「貴女様と同じです。セシリア様も国の
クライヴが言う事に、反論は出来ない。大国も小国も王女の使われ方など変わらない。
嫁ぎ先の国の扱いには差があるだろうけど、国同士の関係が悪くなったら真っ先に敵国の姫として処刑される立場だという事は同じだろうから。
「さて、着いたようですね」
馬車が大きな建物の前で止まった。
扉が開き、従者が馬車から降りる手伝いをしてくれる。
私たちは大勢の使用人が礼を執っている中、建物の中に入って行った。
案内されたお部屋は、可愛らしく整っていて……そうね、私の国のお部屋より広くて豪華だ。
まずは旅の疲れをと言われて、湯あみをさせられた。
そうして、多分部屋着だろう。少しゆったりとしたドレスに着替えさせられた。
召し替えが終わると、するすると侍女たちは部屋を出ていく。
入れ替わるようにクライヴが侍女を二人引き連れて入って来た。
「アン・コリンズとセルマ・オルポートです。この者たちが今日からセシリア様のお世話を致します」
私付きの侍女は二人なのね。
「アン・コリンズと申します。よろしくお願いいたします」
20代半ばだろうか、少しふっくらしているけど、可愛らしさが残る物腰のやわらかな女性のようだわ。
「セルマ・オルポートと申します。精一杯務めさせて頂きます」
女性と言うよりはまだ少女の様だ。顔にも幼さが残る。
まだ勤め始めたばかりみたいで、不慣れな感じがする。
「そう。セシリアよ。よろしく」
私はにっこり笑って、二人を見た。
「今日はお疲れでしょう。残りの侍女や召使は、明日お引き合わせいたします」
侍女……まだいたんだ。
「わたくし、ジェシカ・クライヴは、セシリア様の教育係を務めさせて頂きます。ですので、しばらくの間、わたくしもお傍に仕えさせて頂きます。お勉強は、
お勉強……。
「わかったわ。よろしく」
「かしこまりました。わたくしは、これで失礼いたします。今日はお疲れでしょう。ごゆるりとお過ごしくださいませ」
そう言って、クライヴは退出してしまった。
私の教育係だったのか……って、何を勉強するのだろう?
王妃と違って、側室や妾が表に出る事なんて無いのに。
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