第3話 セシリア姫の覚悟

「セシリア姫。お待ちください」

 エイダが息を切らしながら私の後を付いて来ている。

 私はそんなエイダを気遣う余裕もなく、自室の扉をバタンと勢いよく開けてしまった。

 中にいたコリンが、ビックリしてこっちを見ているけど、私はベッドにそのまま突っ伏して泣きだしてしまっていた。


 酷いわ。

 だって、あんな妾同然の扱い。

 身一つで来い? 小国とはいえ、仮にも一国の王女にそんな事言う?

 だいたいどこで見染めたって言うのよ。私はまだ社交界デビューも果たしてない子どもなんだからね。

 しかも、自分の意に添わなかったら、他国の国民を平気で皆殺しにするような、残忍な国王の下に行かなければならないなんて、酷すぎるわ。


「あの……セシリア姫? わたくしも、お供いたしますのでどうか泣き止んでくださいまし」

 オロオロしながら、エイダが私に言ってきた。

「わたくしも、一緒に参りますわ」

 事情を察したコリンまで、私に付き従うと言う。コリンは夫と子どもまでいるのに。


 私を気遣ってくれる二人の声を聞きながら少し気持ちが落ち着いてきた。

 命の危険がある国に付いて来てくれると言った優しい二人。

 他の召使いや侍女たちだってそう、時々抜け出した時に出会う国民だって、いつも私に優しかった。

 私がこの縁談を断ったら、この優しい人たちが皆殺しになってしまう。



 大丈夫。

 最初から覚悟していたことじゃない。私の番が来ただけ。

 お姉さまたちは、涙を流すことも無く、文句も言わず嫁いでいったわ。

 私の様に、身一つで嫁ぐことは無かったけど……。

 私が嫁ぐことで、私に優しくしてくれた人たちを、国を護れるのだもの。

 それを思えばこんな事、大したことじゃ無いわ。


 私は涙をグイっと拭いて、ベッドに座った。

 頑張って笑顔を作る。

「ごめんなさい。ちょっとビックリしただけだから。もう、大丈夫」

「セシリア姫。わたくし、本当に」

 エイダがまだ心配そうに言ってきていた。

「ダメよ。付いて来てはダメ。向こうは身一つで来いって言ってるの。連れて行けないわ」

「セシリア姫」

 コリンも泣きそうな顔で私を見ていた。


「大丈夫よ。わたくしは、どこでだって元気でやっていけるわ。向こうのお城でも、抜け出して城下町で遊んじゃうんだから」

 私は、わざと元気よくそう言って見せた。でも、笑うと涙がこぼれそうになる。

「姫様はおてんばですからね。向こうの侍女たちの仕事を増やさないであげて下さいね」

 エイダが引き立てるようにそう言ってくれた。

 

 大丈夫。

 きっと、大丈夫だから……。

 私は、一生懸命、自分にそう言い聞かせていた。

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