第2話 軍事大国の国王との縁談話
私は侍女エイダの先導で王族専用のサンルームに向かった。
大勢の貴族や臣下が集まる謁見の間や執務室でお話があるのではないので、縁談といってもまだ内々の話なのだろう。
暖かな日差しの中、父王と王妃……母がティータイムを楽しんでいる。
そのいかにも平和そのものの風景に、私は混ざる気も失せて、座っている父王の近くに行き礼を執った。
「お呼びだと伺い参上
私は、わざと他人行儀、つまり公の場での態度で父王に接した。
「おお、来たか。挨拶などは良い。座らぬか」
父王に促されてしまったので、私は用意された席に座る。母は、そしらぬ顔をしていた。
「そなたはアルンティル王国と云う国を知ってるかな?」
おっとりと紅茶を飲みながら、父王はそんな事を訊いてくる。
私はギクッとした。
知らないわけはない。幼い子どもだって知っている。
有名すぎる軍事大国。
つい最近まで、国土を広げるために近隣諸国を潰していた国だ。
そのやり方は容赦無く、いちゃもんを付けては戦争を仕掛け、逆らう国は皆殺しの憂き目にあうという。
和平目的で差し出された姫君を、兵士に切り殺させたことは有名な話だわ。
「存じております」
私は、身体が震えていた。私に来た縁談って……。
「知らぬ方がおかしいか。幼子でも知っている、有名な大国だからな」
父王は、私の様子など意にも介さずにこやかに言っている。
「ここ数ヶ月。あちらから使者殿が来ておってな。セシリア姫を是非もらい受けたいと、こう申すのだよ」
「わたくしを。で、ございますか?」
「どこぞでか見初めたらしく、あちらの国王がそなたにご忠心なんだそうだ。それで、身一つで来て貰ってかまわないから、すぐにでもお国入りをして欲しいと言われている。私としてはこの話を進めたいと思うが、どうかな?」
……どうかな? と言われても、これは決定事項だろう。断れる話では無い。
止めようとしても、体の震えが止まらない。
私は、声まで震えないように気を付けながら父王に訊き返した。
「わたくしが断ったら、どうなるのでしょう?」
「うむ、そうだな。この国の者は、まず皆殺しにされるだろうな。かつて、アルンティル王国の隣国がそうであったように」
父王は、サラッと言っているけど、私一人の為にこの国の全てが危険にさらされてしまう。
「セシリア。あなたがどうしても行きたくないと言うのなら、それで良いのよ」
母も穏やかにそう言ってくれたけど、こんな時に優しい言葉をかけないで欲しい。
「分かりました。日程が決まったらお知らせください」
もう限界だわ。醜態を晒さないうちに部屋に戻らなければ……。
私は椅子から立ち上がり、足早にサンルームから自分の部屋を目指して戻って行った。
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