ハコイリムスメ

くるとん

ニチジョウ

「いってきまーす!」



少し雨が降りそうな天気。バッグの中を確認しつつ、家を出る。


いつもはパパの秘書の人が送り迎えをしてくれてたんだけど、最近は選挙が近い関係で、てんやわんや。まあ、高校までなら歩いて15分ぐらいだし。最近ちょっとおなかまわりが気になりだしたので、ダイエットも兼ねているつもり。



「あ、また着いてきてるし…。」



徒歩通学になってからというもの、パパが心配して、ボディーガードの人をつけてくれている。私の前後5メートルぐらいの距離を保ってくれてはいるものの、正直目立っている。


パパには何度も「心配しなくて大丈夫だから」と伝えてはいる。でも、心配だから、と取り合ってくれない。高校はいわゆるお嬢様学校なので、車での送り迎えは日常茶飯事なんだけど、さすがにボディーガードがそばを固めているのは。



「はぁ。心配してくれるのはありがたいけど、もう17歳だし。」



またパパに言っておかないと、そんなことを考えながら歩いていると、校門が見えてきた。親友のユウヒが手を振っている。ユウヒは病気がちで、最近は入退院を繰り返していた。今も車いすに座っている。



「ユウヒ!おはよー。体調は大丈夫?」



ユウヒの車いすを押しながら、話しかける。たわいのない会話を続けていると、いつのまにかボディーガードがいなくなっていることに気づく。このあたりはさすがにプロのお仕事だな、と感心する。


高校は正直言って退屈だ。まあ、お嬢様学校らしく、生け花の講座とか、テーブルマナーの講座とかがあるので、そのあたりは楽しい。今日は残念なことに、普通の授業ばっかりだった。成績はまあまあ。


あっという間に一日が終わる。ホームルーム後、少しユウヒと話していたけど、執事さんが迎えにきたみたいだったので、校門まで車いすを押す。



「カナさま、いつもありがとうございます。」



執事の宮本さんにお礼を言われる。親友として当然だと思っているけれど、お礼を言われるとなんだかくすぐったい気持ちになる。


ユウヒを乗せた車が走り出したので、少し手を振って、帰路につく。


いつのまにかボディーガードがしっかり前後を固めていた。私がちょっと恥ずかしく思っていることを知ってか知らずか、特に声をかけられたりはしない。たぶん、パパがそういう依頼をしているんだと思う。



「あ、新作だ。」



帰り道のお菓子屋さん。ショーウインドウにモンブランが並んでいた。せっかくなので2つ買って帰る。パパは相変わらず事務所に缶詰なので、ママと私の分。


保冷剤は断って、モンブランを受け取る。最近袋が有料化されてしまったので、マイバッグに入れた。



「ん?あ、電話だ。」



最近ヘビロテしている曲を着信音にしている。



「あ、もしもし。パパ?」



いつもの電話。困ったことはないか、ユウヒちゃんも元気か、ママによろしく。いつもの定型文だけど、どんなに忙しくても電話をかけてくれる。クッキーを追加で買うことにした。まあ、言っても無駄だとは思うけど、ボディーガードはいらないとも伝えておいた。


それにママのことなら、ママに直接電話すれば良いのに。夫婦仲は悪くないと思うんだけど、まさか仮面夫婦ってことはないよね。


想像力をたくましくしながら歩いていると、家に着いた。



「ただいまー。あれ、ママー?」



返事がない。鍵もかかっていたので、合鍵で開けて家に入る。想像力をたくましくしすぎたせいか、少し変な考えが頭をよぎる。


少し心拍数が上がる。おそるおそるリビングのドアを開けた。あたりを見まわすと、テーブルに置手紙があった。どうやら選挙が近いので、ママは応援に向かうみたいだ。



「冷蔵庫に晩ごはんがあるから、温めて食べてね。か、えーっと、冷蔵庫、冷蔵庫…。」



モンブランをしまいつつ、冷蔵庫を除くと、ハンバーグが入っていた。ママは私のダイエット事情を知っているため、ごはんは少なめだった。その代わりサラダはたっぷり。


とりあえずおなかが空いているので、ハンバーグとごはんを温める。最近の電子レンジはすごいと思う。ハンバーグとごはんを同時に温めることができる。一応理系なので、こういったことには興味がある。


部屋着に着替えて、ブレザーとスカートをハンガーにかける。リボンとシャツは洗濯機へ。



「うん。おいしー。」



豆腐ハンバーグだった。サラダ用のドレッシングを忘れていたので、冷蔵庫に探しに行く。ついでにモンブランも取り出す。ママはしばらく帰ってこなさそうなので、もう一つは明日の夜にでも食べることにした。



「さてと、お風呂入って、寝よー。」



今日は早く休むことにする。誰も起こしてくれる人がいないので、とりあえずスマホでアラームをセットしなおす。スヌーズも設定しておく。



「むにゃ…。」



早く寝たおかげか、だいぶ早く起きれた。まだアラームもなっていないし、外はまだ薄暗い。二度寝したいところだけど、そんなに余裕はないので、歯磨きに向かう。


ひとまずお湯を沸かして、インスタントスープをつくる。パンは柔らかそうだったので、焼かずに食べることにした。



「んー。…まだ眠たいな…。」



目のあたりをこすりながら、着替え始める。今日は体育があったはずなので、タオルやらをカバンに入れておいた。昨日入れた折り畳み傘、今日も必要なさそうなので、机の上に出す。



「よし、電気は切ったし、鍵も持ったし。」



火事になると困るので、使ってないけど、一応火元も見ておく。準備完了。家を出ると、車が止まっていた。ユウヒが手を振っている。



「カナ、おはよ!一緒に行こうよ。乗って!」



昨日、徒歩通学になったことを話したので、気をつかってくれたようだ。申し訳ない気もするけど、ユウヒとの仲だし、お言葉に甘えることにする。


道中は5分もないぐらいなので、今日は少し寒いねー、なんて言っていたら高校についた。執事の宮本さんにもお礼を言って、車を降りる。今日は体育があるので、気分上々。


午前の授業が終わるころ、ユウヒが体調を崩してしまった。すぐに保健室に連れていくと、先生が宮本さんに電話をしていた。どうやら迎えに来てもらえるようだ。心配だけど、私がいてもできることはないので、軽いあいさつだけして保健室を後にする。


ホームルームが終わるころ、ユウヒからメールが来ていた。また入院することになったとのことだった。タイミングを見てお見舞いに行こうと思う。



「あー、やっぱり。」



校門を出ると、ボディーガードが後ろからついてきた。今日は後ろからついてくるフォーメーションみたい。



「まあ、学校の中まで来られないだけましか。」






家に着く寸前、ボディーガードから声をかけられた。めずらしい、というよりも初めてのことだったので、驚く。



「先ほどお父様宛てに脅迫状が届いたようです。ご自宅も危険ですので、ひとまずこちらへ。」



やや離れた場所から黒塗りの車がやってきて、後部座席のドアが開く。私が乗ると、車はゆっくりと走り出した。



「近くに弊社の管理する建物があります。そちらへ向かいます。」



パパはそんなに敵がいる政治家じゃないと思っていたけど、誤解だった。しばらく車に揺られていると、白い建物の前で止まった。少しこじんまりとした建物。特に表札などは出ていない。




玄関から入ると、奥にママの姿が見えた。後ろ姿だったけど、ママに間違いない。なんだ、ママも避難してたんだ。声をかけようと歩きだしたとき、スマホがなった。




「もしもし。パパ大丈夫なの?






え、なんのことって…。脅迫状が来たんでしょ。だから私とママ、今ボディーガードの人に連れられて…。






え…。ボディーガードは昨日のうちに解約したの…?



じゃあ、この人たちは…。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハコイリムスメ くるとん @crouton0903

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説