手を。


 伸ばしていた。


 ふたり。


 同時に。


 親友を。


 ドアが閉まる前に。


 電車に、引き込んだ。


「おいっ。お前らっ。何を」


「だめっ」


 彼女。


 親友に、抱きつく。


「だめ。わたしたちのせいで、誰かが。それは。だめ」


 電車の入り口。彼女。声にならない、声。


「おい。電車。乗っちまったぞ。俺も」


 親友。


 泣いていた。


 たぶん自分も。泣いている。


 彼女と。


 親友が。


「おい。まあ、もう、お前に拒否権はないけど。いちおう、便宜上、俺も聞いておくぞ」


 こちらを見つめる。


「俺と、彼女。ふたりぶん、ちゃんと愛せよ。いいな。ふたりぶんだからな」


「ああ。わかってる。わかってるよ」


 電車。ゆっくり、動き出した。午前四時の合図。


 昇ってきた朝陽に照らされて。自分を見つめる、ふたり。


「ずっと一緒にいよう。三人で」


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