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街の中心にある、駅に向かって。ゆっくりと、ふたりで、歩く。
そろそろ、夜も明ける。まだ空は、深い蒼のなか。
「出ていくよ。この街を」
隣の彼女。無言。
「俺は、たのしかった。これまで。その思い出を。大事なものにしたい」
「わたし。二年で」
「もう」
彼女の言葉を遮って。
「もう、この街には。戻ってこない」
戻らない。
自分の好きな女性が、生きていくであろう街を。出ていく。行き先は、決まっていない。午前四時に列車が来るらしいので、それに乗って、どこか。遠いところへ。
「ありがとう。今まで」
好きだという言葉も。手を繋ぐことも。彼女の心にふれることも。なかった。
夜が明ける前に。
駅に着く、だろうか。
「わたしね」
彼女。声の震えを、押し隠している。そういう細かい機微まで、分かってしまう関係だったのだと。今更ながら、思う。
「わたし。あなたといられて」
ゆっくり。
自分にしか聞こえないような、小さな声で。
「あなたといられて、よかった。あなたのことが」
それ以上は、出てこないようだった。
「それでいいんじゃないかな」
この街で、ふたりで育った。一緒にいられて、幸せだった。それだけで。それ以上は、ない。
親友から、電話。
電源を切ろうとして。
「出てあげて。あなたの、親友、なんでしょ?」
「そうか。そうだな。こいつにも別れを言わないと」
電話に出た。
「すまん。結婚式には、出られない」
『は?』
「出ていくよ。この街を。もう、戻らない。今まで、ありがとな」
『おい待て。せめて俺の結婚式ぐらいには』
「四時の電車に、乗る予定だから。ありがとな。お前と会えて、俺さ、しあわせだったよ」
電話を切る。
「はあ」
涙が出てきそうだったので、目を閉じて立ち止まった。
最後に見えた景色は。駅前のバスロータリー。
心を、落ち着けて。
涙を、抑え込む。
不意に。
顔に。
口許に。
やさしい、軟らかさ。
一瞬だけ、ふれあって。
すぐに、離れる。
目を開けた。
彼女。
目の前。お互いの吐息が絡みそうな、距離。
「ありがとう。好きでした。さよなら」
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