第6話 開眼…按摩拳

「お疲れ様です!」


守衛らしき兵士がクリスタに挨拶をする。クリスタはにっこりと笑い、俺たちを連れて門を通過する。


「さて、カオルは何もわからないようですし難民申請するしかないでしょうね。私はすぐ報告に戻らないといけないし…、そうね。エリン、あなたカオルを連れて福祉局に行って難民申請を手伝ってあげてもらえるかしら?」


「はいークリスタ様!喜んで。行くぞ小僧!あたしについてこい。」


エリンはそう言うと、俺の手を引っ張りスタスタと歩き出す。俺はとりあえずクリスタとジョゼに黙礼をしつつエリンについていくことにした。


「さーてそろそろいいか。」


エリンは人通りの少ない路地に着くと俺に向き直る。


「カオルって言ったよね。お前、強いね。はっきり言って全く見えなかった。気が付くとイビルベアが爆発してた。あれ、なんだ?」


エリンは小柄だ。下から俺を見上げるようにくりくりした大きな目で俺を観察している。


「あのう…さっき福祉局に連れて行くって言ってませんでした?」


「そんなのは後だ!お前のような怪しい奴をほいほい連れて行けるか!クリスタ様はちょっとアレだから騙せたかも知れんがあたしは甘くないぞ!」


どうやらクリスタ様はちょっとアレらしい…。大丈夫か?そんな事言って。俺をじっと見ながら手をフリフリしているエレンは子供みたいでかわいい。


「はいはい…。じゃあそうだな、エリン、俺を何でもいいから攻撃してもらえる?」


「言ったな、、このエリン様をなめやがって…」


そうつぶやいたエリンが殴りかかっって来る。素手か。一応気を遣っているらしい。

身体の使い方を全くわかってないパンチとキックの連打。リハビリにちょうどいいかも。自分の身体の具合を確かめながら手と体捌きでかわしていく。うん、身体は思ったようには動く。いや、やっぱり少し変だ。動き過ぎる。エリンの動きを見てそれに合わせて動こうとするも感じた瞬間には既に動き終わっているという感じか。エリンの攻撃があまりに遅くて暇なので俺は調子に乗ってエリンの攻撃をかわしながら健康に良いツボを最適な強さで押しまくってみた。


「ほぁーアタタタタタタタタ…ちょっと腰痛めてるね。それっホワチャア!」


俺はエリンの周りのくるくる周りながら腎兪・崑崙などの腰痛に聞くと言われるツボや全身をリラックスさせる効果のあるツボを優しく突きまくった!


「ちょっ!何!やめて!あっ気持ちいい…あっ止めないで!うっ!」


エリンは膝から崩れ落ち、ハァハァと肩で息をしている。


「これが…中国拳法だ」


ビシッと俺は言ってみた。はっきり言って全く中国拳法ではないがまあ良いだろう。按摩拳とでも名付けるか。ようやく息が整ったエリンが立ち上がる。


「な、何なのよそれ…。え?ちょっと身体がめちゃくちゃ軽い…。腰も痛まないし。すごい…。」


「これが…中国拳法だ」(2回目)


「と、とりあえずアンタがすごい奴ってのはわかったわよ。何なのかさっぱりわからないけど…。悪い奴では無さそうね。うーん…、よし、そんなアンタをに頼みたい事がある。」


そう言ってエリンはこれまでのニヤつき顔を真顔にし、俺に向き直ると言った。


「カオル、これからあんたを福祉局に連れていく。あんた見たとこまだ子供よね。そうなると仮の市民証が発行されて孤児院でしばらく過ごすことになると思う。」


ほほう…孤児院か。飯は出るのだろうか…。


「孤児院は市政府がイルナティオ教に委託して運営しているんだ。あたしの妹はそこで市政府から派遣されて運営を手伝ってる。でも妹の様子が最近おかしいんだ。元気が無くて理由を聞いても何も教えてくれない。妹の名前はエルマ。あんたには孤児院で何が起きているのかを探って欲しい。頼める?」


イルナティオ教会。まあ宗教も当然あるよね。孤児院を運営するなんて良さそうな感じだが…。


「わかったよ。お世話になるんだし変なことがあればエリンに伝える。それでいいか?」


「ありがとう!助かるよ。あたし親がもう死んでてさ、妹しかいないんだ。とにかく何が起きているのかを知りたい。本当に頼んだよ。」


そう言ってエリンは少し涙ぐんで下から見上げてくる。かわいいなおいちきしょう…


その後俺は福祉局で仮の市民証を発行してもらい、孤児院のお世話になることになった。

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