第5話 新しい世界

とりあえず目の前の危機を脱したものの、俺は完全にビビっていた。考えても見てくれ、突然ワープして外国に放り出されたら誰だって怖いだろ?

俺を遠巻きにする3人と騎士と目が合い、俺は日本人特有の愛想笑いをへへっと披露した。


「クリスタ様、この者…魔族かも知れません。お下がりください!」


確かジョゼと呼ばれていた男性騎士が一歩前に出ると、


「エリン、クリスタ様をお守りしろ。おいお前、抵抗はするな。色々聞きたいことがある…。精霊よ、彼の動きを縛れ。キャプチャーイール!」


すると騎士の手から数本の光のロープが現れ、俺の体を縛ろうと飛んできた。どうする?害意が無いことを伝えないといけないし大人しくしておくべきか。光のロープは俺の上半身に巻き付き、程よい感じで縛り上げられた。ちょっと楽しい。


「あの、俺は、、怪しいものではありません。俺、、カオルと言います。アイアム カオル・ハナダ ドゥーユーアンダスタン?。」


明らかに欧米人顔のジョゼに思わず下手な英語で話しかけてしまう。あ、そういえば言葉は通じてるな。神様の手配か、神様ありがとう。


「ドゥ、ドゥーユー?ちょっと何を言っているかわからん。カオルだな。カオル、お前はなんだ?なぜここにいる?どうやってイビルベアを倒した?」


「待って。私が聞きましょう。」


クリスタ様と呼ばれていたどうやらこの3名のリーダーらしき女性騎士が前に出る。ハリウッド女優みたいな美しさだ。きれいな中にも迫力がある。ちょっと怖い。


「クリスタ様、お気を付けください。この者人間では無いかも知れません。」


慌ててジョゼが止めるもクリスタは目で制す。


「カオルと言いましたね。一先ず先ほどは危ないところを助けてくれたようでありがとうございます。私はこのコルネリア共和国マリーナ市衛兵長のクリスタと言います。率直に聞きます。あなたは誰ですか?先ほどの動きを見る限りただの子供では無さそうですが…。」


む、情報が入ってきた。いいぞ。どうやらここはコルネリア共和国。マリーナ市という場所に居るみたいだな。さてどうする?神様が…とか言ったら完全に危ない人だと思われそうだ。むう…。とりあえず俺は縛られたまま説明を試みることにした。


「あ、あの…。俺は、、キ、記憶が無いんです。名前はわかるんですけど。気づいたら森に居て、歩いてたら熊が出てきて…。俺、じいちゃんの事だけは覚えていて中国拳法習ってたから…熊とか怖くないし…」


ダメだ、俺は嘘が下手だ。


「まあ、記憶を失っているの?それは大変だったでしょう…。可哀そうに。おじい様は一緒にいないの?ジョゼ、縛ったままなんて可哀そうでしょ。早くお解きなさい。」


クリスタ様はどうやらきれい過ぎる心をお持ちのようだ…。


「ほら、ジョゼ。クリスタ様が仰っているんだからやめなさいよ。」


エリンと呼ばれていたちょっと生意気そうな顔の小柄な騎士が半笑いでジョゼに言う。


「む…。しかしクリスタ様、こ奴は怪しいですぞ。騎士3人がかりでも追い払うのは精いっぱいのイビルベアを簡単に倒しましたし…。」


「あの、じいちゃんは強くて、俺、じいちゃんに拳法教えてもらったから…。でもじいちゃんもういなくて…ううっ…」


できるだけ可哀そうな感じで俺は言う。


「ほら!可哀そうでしょ!早く!」


クリスタ様ちょろいな…。


「わかりました。リリース!ただしお前は動くなよ!」


ジョゼが魔法?を解いたようで僕に絡んでいた光のロープは消え去った。


「カオル、あなたには保護が必要なようです。私たちコルネリア共和国はこの魔族が蔓延る世界において人間の団結と救済を目的としています。市の難民救済部門で必要な助けを得ることができるでしょう。」


おお、すごい良い国みたい。コルネリア。俺としても異論はない。とにかくこの世界を理解する必要があるし、この身体もまだよくわからない。さっきは思わず戦ってしまったが体中に違和感がある。10年振りにこんなに動いたのもあるだろうけど、正直自分の身体だとは思えない。軽自動車にF1のエンジンを積んだような、気を抜くと大変なことになりそうな感じだ。さっきの熊の動きも寝ていても躱せるレベルだったし、形意拳熊形から勁を練った時のあの爆発的なエネルギー、あれが精霊力なんだろうか…。とりあえず落ち着いたところで考えていこう。


「あ、ありがとうございます…。よろしくお願いします。」


そうして俺は慈母のような優しい微笑みを浮かべるクリスタと、苦虫を噛み潰したよう顔のジョゼ、ニヤニヤ謎の半笑いを続けるエリンと共にマリーナと呼ばれる街へ入るのであった。

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