第10.5話 『妖精さん日記』~林メモ~
私は人気の無い校舎裏へ、よく知らない男子生徒に呼び出されておりました。
「林さんは…気になってる人とか居るの?」
「気になる人…ですか…」
脳裏には、あの子の姿が思い浮かびました。
「僕は林さんの事、気になってるんだけど─」
入学式から1ヶ月程しか経っていない、珍しい時期に彼女は転入してきました。
(小池…ノブコって読んで下さい。よろしくお願いします。)
チョークで名前を板書し、ごく普通の挨拶を済ませた彼女は、私の二つ前の席に着席しました。
ですがこの時私は、心に何か引っ掛かりを感じたのです。周りの人はガヤガヤと、緊張してるのかな?なんて言っていましたが…。
「急に呼び出したりしてごめん。何だか緊張するね…」
「緊張…ではなかった様な…」
「え?」
私はその日から、彼女の何が私の心を揺さぶったのか、書き留める様になったのでした。これが、"妖精さん日記"の始まりでした─。
まず彼女は、漂う霞みの如く、掴み処のない人柄で、クラスメートと共に行動をする事はありませんでした。
行動も予測不能で、休み時間やお昼休みもふらふらと何処かへ行ってしまうのです。
私は何度も後を追いかけましたが、彼女は、人の意識の隙間をすり抜ける能力でもあるかの様に、追っている最中に見失ってしまうのでした…
過剰にだらしなく着こなされた制服は誰の注意も受けませんし…私だけが気が付いてることなのでしょうか…?直接直してあげたいけど、あげられない、もどかしさ…
「何だか林さんを前にすると、ドキドキするね…」
「ドキドキ…胸の高鳴り…」
「林さんがいたら、つい目で追ってしまうしさ…ごめん、キモいよね…」
「つい目で追ってしまう…」
「そういうのって…その…何ていうか…」
何といいましょう…。私はいつの間にか、彼女の事を気し始め、目で追うようになり、彼女の全てを知りたくなり、ゆくゆくは、彼女が私を特別な存在として認識して欲しいと─
「初めてです…こんな気持ちになったのは…」
「それは…どういう…?僕、期待してもいいのかな…?」
「いえ!これは私だけの気持ちです!」
「…?」
(独り占めしたいのです─)
「林さんってさ、その…コンタクトにはしないの?いや、そうしたら凄く目立つよね─」
(そうです!記念すべき、ファーストコンタクト!)
そのとき彼女と接触出来るタイミングは、教室の中だけでした。
私は技術の授業との相性が良かったみたいで、プログラミングやAIロボットの組み立ての授業も得意でした。
「林さんって容姿もだけど、頭もよくって、高嶺の花だから僕とは釣り合わないかもだけど…」
(高嶺の花だからこそ…掴みたいのです!)
私は特技を使って、彼女に自作のGPSを渡しました。これで漸く、彼女の行動範囲がわかる様になりました!
「えーと、重く受け止められたくないんだけどさ…」
重さ…。しかし、少し肩をぶつけたときの彼女のあの吹っ飛び様も何か気になりますね…
「良ければ…連絡先を交換─林さん、聞いてる?」
何故ミドリムシ型にしたのか?
それは、彼女の体操着入れがドット模様で、間違い探しのように1つだけミドリムシの形をしていたからです。
(この、私貴方のこと理解してますよアピール、くどかったかしら…?)
感づかれ無い様に、ブラフで防犯ブザーに改造を施しました。更に性能をアップさせた、第2段キーホルダーも作る予定です。
「くどい様だけどさ…林さんともっと深い中になりたいっていうか─」
「その気持ち…分かります…」
彼女の居る場所が把握出来る様になった私は、彼女のお宅だと思われる場所に思わず足を運んでいたのです。そこは、身近な生き物を展示する博物館でした。
(いつか彼女とばったり会わないかしら?)そんな期待から、何度も通いつめるうちに、この博物館自体の魅力にハマってしまっていたのは、館長の策略かもしれません…。
─予鈴が鳴りました。
「林さん…まだ伝えたいことが─」
「ごめんなさい。私の様な眼鏡キャラは、真面目なのが売りですので!」
「林さん、僕─」
「ですが…ありがとうごさいました。貴方のおかげで私…自分の本当の気持ちに気がついたみたいです!では。」
そう言って、ポニーテールを揺らしながら、軽やかな足取りであの子の居る教室へと向かったのでした。
「…林さんの魅力、半端ない…」
それは、私がまだ彼女を擬人化の方だとは知らない時のお話─
◯林メモ
・彼女の名前は小池ノブコ
・一人で居るのが好き
・認識阻害の能力でも持っているのだろうか?
・無頓着な着こなしは拘りなのか?
・持ち物はドット柄が多い
・体重がとても軽い
・実は警戒心が薄く、天然っぽい(可愛い)
・実家は博物館
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