第11話 アウトドアな彼女と夏の思い出

ここは博物館「小池ネイチャーミュージアム」。私の養父アキヨシが経営する小規模な博物館だ。電車を乗り継いだり、車でしか来れない辺鄙な場所にあるため、利用者は其ほど多くない。

私は正面玄関で皆が来るのを待っていた。


「私は中の展示を見ながら、待たせて頂きますね。」林さんは待ち合わせ時間よりも少し早く来た。アキヨシが冗談半分で作った、年間パスポートのチケットを持っていたのは驚きだった。


(今日の展示のメインはイモリですか…。)

林さんは、展示動物より水槽に取り付けてあるカメラやセンサーなどの機械をじっくり見ていた。

(成る程。自動調節機能付きなんですね。だから、水槽の中身を入れ替えても、その生き物にあった環境に変わるんですね。素晴らしいわ。何てコスパが良いんでしょう!)


「おっはよ。来てやったぞ!…何だよもう林来てたのかよ。私も中、見させて貰ってもいい?」

ミトさんは、アキヨシが3Dプリンターで作った動物骨格標本のコーナーの前で立ち止まった。

(…美味しそう。…これ本物じゃないの!?なんか骨付き肉っぽい匂いするけど…)


エンジンの音がして、ミミズクくんが目の前で止まった。

「中入って待ってて、原付停めてくるから。」

彼がヘルメットを脱ぐと、押さえ付けられていた髪が、いつもの猫耳の様な形に広がった。

(元通り…いい感じ。)それを見届けた私は、アキヨシを呼びに行った。


「今回は、博物館で動物の鳴き声フェアをしようと思っています。ここから更に自然の多い場所まで歩いていきます。マイクを適当な木に取り付けていきます。取り付けあったマイクの回収もします。が、えーと…皆さん?」


(妖精さんのレア写真を撮る!)

(アキヨシというやつは怪しい─)

(小池さんとの距離を縮める!)

彼らはそれぞれ別の事を考えていた。しかし、皆同じ目的を持っていた。

─彼女ともっと仲良くなりたい─


「とりあえず…行きましょうか…」

アキヨシは、何となく彼らの思っている事が分かったのか、何故か鳥肌が立つような感覚に襲われたので、とりあえず深く考えないよう先に進むことにした。


「林さん、足元が悪いので、立ち止まって安全を確かめてから写真は撮ってくださいね。」

「はい。もちろん気を付けます。」林さんは首からシッカリとしたデジタルカメラをぶら下げていた。

「俺も呼んで頂いてご迷惑じゃなかったですか?」

「女子生徒ばかりじゃ僕の肩身が狭くなるからね、助かったよ。」

と、アキヨシはミミズクくんの肩に手をポンッと乗せた。

「ねぇ、木に登っていい?そこにマイク取り付けちゃるからさ!」

「それは面白い試みですね。ですが、くれぐれもケガはしない様に!」

「小池さん、ここ段差あるよ。」と、ミミズクくんが手を差しのべてくれた。

ありがと。と私は手を取る。

「紳士ぶりやがってるコイツ。ちょっと前のコイツを見せてやりたい─モガッ」

ミトさんの口が、ミミズクくんの腕によって絞め技の様な形で封じられた。流石、夜のハンター呼ばれるフクロウといった感じの殺し屋みたいな俊敏な動きだった。

「妖精さんの手を取るというのは本来なら私の仕事ですが、今は夏の思い出をカメラに収めたいので、今だけ貴方に譲ります…」林さんは苦々しい顔で言った。


「さて皆さん、マイクの取り外しと取り付けをやって行きましょう─」

私は以前の取り付け場所を知っていたので、マイクを外していく場所を皆に教えていった。


「くれぐれも、落ちない様に!」

アキヨシの監督の元、ミトさんはマイクの取り付けで木に登っていた。

私が、ミトさん凄い…。と呟くと、ミミズクくんも何故かミトさんと張り合う様に木登りをして、マイクの取り付けを始めた。隣の木同士でバチバチと2人は火花を散らしていた。

「2人とも、もう木の上のマイクは十分なので、降りてきてくださーい!」

「やっぱりミトさんとミミズクくんって似てる…。」

「似てない!!」シンクロした2人の声が響いた。


「ふぅ、沢山写真撮れました!」林さんは満足げだ。

「げ、私写真苦手なんだけど…何か怖くならん?…こう、心霊写真みたいに。」

「確かに俺もあんまり綺麗に写ったことないんだけど…」

「そんなことないですよ、写真館のおじさんにコツを教えて貰いましたから、擬人化の方もほらこの通り!」

林さんは、撮った写真の画面を見せてくれた。

「本当だ、めっちゃ綺麗に撮れてんじゃん。林、この写真欲しい!」

「だけど、小池さん少し透けてない?」

「妖精さんは、これが限界みたいです…。もっと私に技術があれば!」

「だけど、私ってこんな感じに見えてたんだね。知らなかった…」

「へぇー、十分大したもんだよ。この子の写真でこんなにもハッキリしたものは初めてなんじゃないかな。良かったじゃないか!」

「其では後で皆さんに撮った写真送りますので、スマホの連絡グループを作りませんか?」

そして私たちは、連絡先を交換し合った─。


そして、私…林は皆の気が緩んだ事を見計らって、もう一枚シャッターをきったのだった…

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