エピローグ

 壁を覆うステンドグラスから差し込んだ光が、彼の手を照らしている。床につけた片膝が、絨毯の毛を押しつぶした。帯刀していた剣は利き手と逆側の床に置いている。彼は首を垂れたまま静かに次の言葉を待った。


「――確かに、セリーニ・デラの監視役はお前の兄に任せようと考えていた。それをレオ、お前が引き受けると?」


 レオが膝まづいている場所からずっと奥、玉座に座った国王がそう言った。彼と国王の間には、白いフードコートを着た神告庁の一団が立っている。


「はい。自分はセリーニ・デラとも面識があります。怪しまれる事なく接近できますし、もし彼女が任務から逃亡するようなことがあれば・・・」


「お前が始末できると?」


「はい」


 神告庁の中の1人が、プッと噴き出した。


「国王。レオ・カンタレラは兄弟の中でも一番の出来損ない。それ故第三隊に留まっているのです。その彼に大役が勤まると?」


「ふむ・・・」


 神告庁の発言に、国王は黙り込んでしまう。レオは何も言わず、奥歯を噛みしめた。


「まあ、良いだろう。先ずはお前が行ってみろ。ただし何も成さずに帰ってきた時、第三隊にお前の席は無いと思え」


「――はっ」


 レオはさらに深々と頭を下げた。


「もう良い。さっさと行け」


 そう言われて、彼は剣を取るとサッと立ち上がった。


「我が国王に幸あれ」


 青い制服の隊士が護衛する扉を通り、レオは謁見の間から去った。後ろから囁き声が聞こえたが、振り返らなかった。

 一階まで降りていくと、入口から向かって左手、城の西側に向かう廊下を歩いた。途中にある扉を抜けて渡り廊下を通ると、修練場が見えた。レオと同じく黒い制服を着た隊士達が、庭に出て練習用の木剣で斬り合いをしていた。渡り廊下を挟んだ反対側では、紫色の制服を来た男達が酒を片手に寝転がっている。

 修練をしていた隊士達はレオの姿を見るなり剣を降ろし、その場で姿勢を整えた。黒髪を短く整え、日焼けした男が一歩前に出た。胸には銀色の徽章を着けている。


「お疲れ様です、隊長。前勇者の妻にはお会いになれましたか?」

「ああ。そのことで少し相談・・・いや、報告がある。俺はこれからセリーニ・デラに同行し魔王城に向かう」


 男は豆鉄砲を食らったような顔をした。


「――同行!?それでは、我々も支度を・・・」

「いや、俺一人で行く。俺が不在の間、トリトが代理隊長となるように」

「そんな、急には無理です!」

「副隊長としてやっている仕事と大して変わらない。トリトなら問題なくこなせるよ」

「・・・」


 トリトと呼ばれたその男は言葉を失ってしまった。


「あとドラゴンを3匹借りる。恐らく当日に長期用のドラゴンを借りるのは難しいだろう。返却するために1人着いて来てほしい」

「では自分が――」とトリト。

「いや、指揮役がいなくなったら他の隊士が混乱する。・・・そうだな、お前いけそうか?」


 レオはまだ新人の隊士に声をかけた。新人は上ずった声で「はい!」とだけ返事をした。


「では着いてくるように。トリト、悪いが後は頼む」

「承知いたしました。・・・お気をつけて」


 片手を挙げて挨拶をすると、レオは修練場を後にした。

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