第31話〜ラスアート街道への道
ラスアート街道へと続く道を一台の馬車が猛スピードで走っていた。
森を切り拓いて作られた道は主となる道と比べると細く、ろくに手の入っていない木々の枝や蔦がただ均されただけの道を遮るように生えている。
それらを引き千切り、散らしながら馬車は猛然と走る。
二頭引きの馬車の御者台に座る壮年の男の表情は焦りに満ち、道を外れぬよう振るう鞭も慌ただしい。
二頭の馬も御者の要望に応えようと大量の汗を流しながら駆けるが、いかんせん馬車には荷台が繋げられており限界は近かった。
しばらく前から車軸から異音も聞こえる。
どちらにせよこの状況が長く続くことはなさそうだった。
馬車の後方には数は少ないが馬に乗った粗野な格好の男たちが見える。
その数はほんの6人だが、そのさらに後ろには三倍近い男たちが追いかけてきている。
積み荷を乗せた馬車を引く二頭の馬の足では、目に見えて男たちしか乗せていない馬の方が速い。
追いつかれるのも時間の問題だろう。
「ローランさん、もう馬がもちません!積み荷だけでも捨てないと追いつかれますよ!奴らも積み荷が手に入れば追ってこないはずです!」
御者が引き攣った悲鳴のような声で馬車を振り返って叫ぶ。
すると馬車の中で揺れに耐えていた、御者よりも幾分か若い男が顔を出す。
「致し方ない、か」
ローランと呼ばれた男は苦渋に満ちた顔で荷台の方へと振り返る。
そこには商品がこれでもかと積まれており、これでは確かに逃げられるものも逃げられない。
苦労してここまで運んできた商品を手放すのは惜しい。
しかし命には代えられない。
後ほんの半日ほどで街道に出るというこのタイミングで盗賊たちに襲われたのも、彼のような利のために危険を承知でショートカットする強欲な商人を獲物にしているからだろう。
この道は険しい山々の合間を縫うように通る裏道で、隣国から最短でラスアート街道へと続く商人たちの中でも知る人の少ない抜け道だ。
正規の道を通ってラスアート街道に出たければ大きく迂回する道を通らなければならないため、馬車で一月近く掛かる。
しかし急だが真ん中を抜けることのできる裏道ならばそれがほんの10日ほどで済むのだから、欲深い商人が使用しないわけがなかった。
情報は値千金、時は金なり。
「グリーンウルフに襲われたのも奴らがけしかけてきたからかもしれんな」
護衛に雇っていた冒険者たちもいたのだが、盗賊たちに襲われる数刻前に突如として襲いかかってきたグリーンウルフの群れにほとんどがやられてしまった。
普段は臆病で複数人でまとまる人間を襲うようなことはないが、逆にこちらから手を出せば死ぬまで狂ったように攻撃してくる緑の体毛をした狼たち。
思えばタイミングといい完璧に罠だったのだろう。
今更この道を通ったことを後悔しても遅い。
積み荷の一部に手をかけるローラン。
しかし次の瞬間、森の中から矢が飛んできて片方の馬の足の付け根に突き刺さった。
猛スピードで走っていた馬が嘶き、バランスの崩れた馬車は道を外れて森の木々にぶつかる。
御者は投げ出され、ローランもまた全身を打ち付けた衝撃で意識を失った。
横転した馬車に、馬に乗った男たちがとうとう追いついた。
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