第32話〜獣人のコウユウ
横転した馬車を前に、馬に乗った男たちは油断なく様子を窺っている。
決して小さくなく頑丈そうな馬車は木に衝突した衝撃で所々がボロボロになっていたが、横転したことにより中の様子は見ることはできない。
馬車の護衛の男達はすでに始末したとはいえ、身辺を警護する実力者がいないとも限らないため、慎重に行動するその姿はただの盗賊ではない。
男達には油断という文字はなさそうだ。
男達は皆薄汚れた服を身にまとい、ターバンのような布を頭に、そして口元に巻いている。
しかしよく見てみれば服はそれほど使い古されたりしているわけでもなく、ただ汚れされているだけにも見える。
そして盗賊が持つにしては武器の質はよく、手入れもしっかりされているようだ。
一羽の鳥が横転した馬車に下りる。
「ぴょ!」
そして窓を覗き込み、大丈夫だよ!と言わんばかりに鳴いた。
どうやらテイマーもいるようだ。
馬に乗った男の一人が下りて横転した馬車の扉を開く。
そして中を覗き込み、振り返って頷いた。
男たちは次々と馬を下りて、その荷台や飛び出していった男や御者の元へと向かう。
無駄口を叩くことなく淀みなく行動する様はとても手馴れていて、こうして商人などを襲撃することがよくあることが窺える。
不意に森から複数の人影が現れた。
1人は先ほど馬を射たであろう弓矢を持った男。
そして続くように現れたのはフードを目深にかぶった、一組の男女。
なぜ男女と分かったのかと言うと、片方はローブ越しにも分かるほどに女性的な凹凸がはっきりとしていたからだ。
男たちは手を止めて仲間の男の後ろから現れた2人に視線を向け……
「ユウキさん!助かりましたよ、これでまた同胞たちを救うことができました!」
盗賊たちの中でも男たちを指揮していた男がにこやかに頭を下げた。
「いえ、気にしないでくださいよ。里を出てからはコウユウさん達にはお世話になりましたから」
それに答えたのは片目を布で覆い隠した少年、ユウキ。
その格好はローブを纏ったものだが、森から出る時にフードは外して顔は隠していない。
もう1人の少女はそのままだ。
「お世話だなんてとんでもありません。こうして手を貸していただいているだけでも本当に助かっています。捕らえられた同胞たちを解放するのは、失敗すればこちらの存在を露見させることにも繋がりますからね」
そう言って男はターバンのように巻かれた布の下でその特徴的な耳を動かしてみせた。
獣人。
人と獣の特徴を備えた種族。
犬人族のコウユウは柔和な笑みを浮かべる。
その相貌と相まってボロの服をまとっていながらも非常に好青年であることが分かる。
中性的な外見で幼顔。
これで年は三十路というのだから驚きである。
見た目は十代でも通じそうである。
実に女装させてみたい。
現在ユウキたちはコウユウたちと共に人族に拐われて奴隷にされた獣人達を助けて回っている。
というのも時守の里を出たユウキたちの協力者としてオウルが名指ししたのが彼らだったからだ。
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