第29話〜瞳越しの記憶
「……りょーせー、なっかむ、みんな…」
ユウキは並ぶ墓標とそこに刻まれた名前を前にして、地面に両膝をついて呆然と呟いた。
ここは時守の里の北西にある墓地で、周囲には墓を囲むように花畑が広がっている。
何種類にも及ぶ花々はそのどれもが可憐で儚く、華々しさはないが心落ち着かせる色合いのものばかりだった。
墓石はそんな花弁に囲まれながらひっそりと、しかし花畑のどこからでも見えるようなだらかな丘の上にあった。
いくつか並べて置かれた墓石には、恐らくは転移者の誰かが彫ったのであろう日本語の文字がある。
名前、命日もしくは発見日、その他簡略ながら本人の情報が。
そのどれもが同じ筆跡であり、そして墓石の状態は真新しいものから古いものまで様々だった。
そして墓石に彫り込まれた名前はどれもがユウキにとって見知ったものばかり。
「今の所、オウル様が見つけることができたのは此処にある分だけです。痕跡も残さず亡くなられた人もいるでしょう。まだ現れていない可能性もあります。しかしオウル様の【瞳】をもってしても見つけられたのはたったのこれだけです」
ユウキは泉でオクタを介してオウルから説明を受けたことで知った。
オウルが何者であるか、なぜユウキを助けたのか、何が目的であるのか。
そして実際に【瞳】を通して過去の記憶を見た。
それはユウキとオウルとの【瞳】を介してのパスが繋がっているからこそ、実際に見たのと遜色ない、むしろ良すぎる眼のせいでより繊細な現実として脳に刻み込まれた。
そこにはほんの半年前には机を並べて勉強していたクラスメイトたちの壮絶な人生があった。
オウルの【瞳】は所縁のあるものからある程度の詳細な情報を読み取ることができるらしく、同じ【瞳】を持つユウキは実際に見たように記憶を視ることができた。
もっともユウキはまだ布を自ら外すこともできないため、ほとんど一方的に視ることしかできないが。
端的に言えば、ユウキたちが異世界に転移したのは今から20年以上前に行われた戦争が原因だった。
この世界で極々稀に生まれる勇者の因子を持つ者。
それらを独占しようとした帝国と、抵抗する国々。
戦争が始まり、次第に追い込まれていった帝国が強行した、勇者の因子を持つ存在の召喚儀式。
そして失敗。
バラバラの時間軸、場所に召喚されたクラスメイトたち。
過去に跳ばされた者たちによる抵抗と儀式の妨害が結果として最悪を招いた事実。
数十年に及ぶ、複数人の記録と物語を丸一日かけて視て、読んで、話された。
事細かなことまで記された本が残されていたのは意外だった。
ましてや分かりやすくストーリーとなって書かれていたため、情報がまとめられていて理解することが容易であったのだが、まるでこの世界を俯瞰した物語のようだった。
これはオウルが読み取った情報と客観的な情報を交えて転移者の一人が書き残したものらしい。
もっともその人物が転移者であることをオウルたちは別れてから知ったそうだが。
その転移者にユウキは心当たりがあった。
きっとユウキの友人の一人なら話を本にまとめることが可能だろう。
本には明らかに事情を知る情報や表現があった。
その友人であっているならばサイドストーリーや番外編も存在しそうだった。
ユウキはその友人を見つけ出すことを心に刻み込む。
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