第28話〜過去、現在、未来
時守の里の四季の森。
そこの奥深くにある冬蓮の泉の畔りに建てられた社。
そこが私の今の寝床です。
私はこの森の冬を守護すると共にこの地で傷付いた身体を癒しているのです。
かつて主人であるトモと共に旅をして回った折、大陸全土を巻き込んだ戦争に深く関わることがありました。
図らずも敵である帝国の策略により、トモと仲間たちは転移の罠に嵌りバラバラに跳ばされてしまったのです。
トモはこの大陸の地下深くに広がる高難易度ダンジョン【奈落の深層】に跳ばされ、私は別大陸の【悪鬼の森】の奥深くに跳ばされたのです。
どちらも伝説に語られるほどの場所であり、ほぼ間違いなく生きては帰ってこれないと言われる場所でした。
そこでの話は今は置いておきましょう。
ただ、生き延びたのが奇跡と思えるほどの激闘と冒険譚がありました。
結果としてトモは最奥に眠る魔神を呼び覚ますことで地上に戻り、私は悪鬼たちを倒すことで格を上げてなんとかこの大陸に戻ることができたのです。
その際に私は身体の奥深くに長い時をかけねば癒えない傷を負い、同時に侵食する呪いから逃れるためほぼ異界と化したこの里に封印されたのです。
トモは魔神から魔眼、いえ、魔神の瞳なので魔神眼ですね、を植え込まれ、さらには所有者を生に縛り付けて不死者にする代わりに永遠に魔神の遊び相手にさせられる首輪を付けられました。
同時に異世界人とこの世界の勇者との間に生まれた自分のルーツを知り、旅の道中で仲間になった異世界人の戦士との契約により、”過去現在未来のバラバラの時間軸に跳ばされた”異世界人の保護に奔走しているのです。
私はその手伝いのできない自分がもどかしい。
この時守の里は外の世界と比べて格段に時の流れが遅く、外でトモがどれだけの時間を過ごしているのかは分かりません。
この異界の創造にはあの混沌の女神、気まぐれな魔神が関わっていて、時の流れも自由にかえることができるからです。
トモを慕う者や世界を追われた者たちが定期的にこの里にやって来ます。
しかし今の所異世界人がこの里に来たのはほんの数回しかありません。
縁者を含めればもっといますが、この里に住み着いた異世界人はまだ誰もいないのです。
あるのは異世界人の遺品と名前の掘られた墓のみ。
過去に跳ばされた異世界人と思しき存在もいます。
まだ跳ばされて来ていない異世界人もいるでしょう。
人知れず命を落とした者もいることでしょう。
唯一生きていることが確認されているのは共に旅をしたあの戦士と青年、話に出て来た夫婦のみ。
トモは異世界から捕らわれた人々を元の世界へと帰すための方法も探しているようですが、世界はまだ戦後の混乱にいるので難航しているようです。
時たまこの里に戻って来ては、私の身体に寄りかかり眠っては旅立つトモ。
トモは死ぬことはなくとも傷付きはするし苦しみだってする。
常に傍に寄り添えない自分を何度呪ったことか。
ある日、トモが泉を訪れました。
傍目には変化は見られませんが、私にはトモが疲れ切っているのを感じ取れました。
いえ、この場合魂が摩耗している、でしょうか。
何年外で活動していたのでしょう。
同時にどこか満足したものも感じられたので収穫はあったのでしょうか。
私と同じ契約獣である”彼女”の眷属の一人が供として同伴していますが、トモの癒しになれるのはやはり私だけです。
トモは私自慢の毛並みで眠りにつきました。
そしてあくる日。
”彼女”の眷属であるオクタ、そしてバーシャンが一人の男の子を連れて来ました。
黒髪黒目、彫りの浅い顔。
聞いていた特徴が当てはまります。
そして匂い。
この世界の存在とは少し違う異世界の匂い。
トモは一人、見つけたのですね。
そしてこの匂いはある人物を彷彿とされます。
つまり彼女の関係者ですか。
きっとこのユウキという少年にも過酷な未来が待ち受けていることでしょう。
彼には小さいですが契約獣がいました。
なんとなくかつての私とトモを思い出して胸が温かくなります。
私に驚いて気絶してしまうほど小さな存在ですが、いずれあの子は彼を支えられるほどに成長することでしょう。
お節介ですが、少しだけ手助けをしてあげるとしましょう。
私の力の一部を授けます。
未だ癒えない私の身体はそれだけで少し気怠くなってしまいました。
先に休みます。
彼らに少しでも明るい未来があらんことを。
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