第18話〜美しくも悍ましい混沌

「はっはー。それにしてもオウル君。少しも鈍ってないようで安心したよ。僕の数少ない喧嘩友達が減ってしまうと、寂しさのあまり手元が狂ってこの大陸を消失させてしまう!なんてこともありえるからさぁ」


”ソレ”は人の形をしていた。


神々しいまでに美しく、言葉に表せないほどだった。


しかしそんな美しさなど、目の前の存在そのものが発する、怖気が立つほどの【狂気】そのものに比べれば霞んでしまう。


それほどまでに恐ろしかった。


本能が警鐘を鳴らし、理性など無視して逃げ出してしまいそうになるほどに。


息が止まっていることに、オクタが背に手を置いてくれるまで気づかなかった。


「意識して深呼吸なさい。大丈夫、この方は理不尽で非常識ですが見境無く破壊をもたらす存在ではありません。非常に、自由奔放で手に負えない存在ではありますが」


自分の他に誰かがいる。


それを認識した瞬間、まるでのしかかるようだった重圧が霧散した。


一気に冷や汗がふき出す。


「はっはー。オクタちゃんたら褒めないでよ。照れちゃうじゃないかー」


ソレが嗤う。


見惚れるほどに綺麗なのに、まず浮かび上がるのは恐怖だ。


オクタがソレとユウキの間に立ち、オウルは安心させるようにユウキの肩に手を置いた。


「褒めていません。それよりももう少し抑えていただけませんか?この子達が安心できません」


この子達?


あ……。


「チョコ大丈夫か!?」


「キュー……」


チョコはとっくに気絶して目を回していた。


ぶくぶくと泡を吹いていたので慌てて呼吸を確かめたが、意識を失っている以外に異常はないようだ。


「おやおやおや、可愛らしい毛玉ちゃんだねぇ?」


「ひっ!?」


目の前に粘りつくような混沌がいた。


違う。


人だ。


……人、なのか?


「随分と珍しいものに懐かれているねぇ。それに君は……なんだい、オウル君」


「…………。」


ユウキの膝から力が抜ける。


へたり込んだユウキが見上げると、ソレの視線からユウキを守るように腕を伸ばすオウルの姿があった。


「…………。」


「別にとって食ってやろんなんて考えてないよ?危害なんて加えないから安心してよ」


「…………。」


「は〜、やれやれ。相変わらず君は過保護だねぇ」


「…………。」


「おいおい、誤解しないでくれよ。まったく、君はボクをなんだと思って……」


無言のオウルと会話の成立していた。


成立、している?


「まぁいいや。君、名前は?」


「え?あ……ゆ、ユウキです」


「ユウキ、ユウキ君ねぇ」


混沌が嗤う。


「よろしくね?ボクのことは◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎……あー、聞き取れないか。ま、フユゥとでも呼んでよ。ね、ユウキ君?」

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