第15話〜多くの種族
物言えぬ寂寥感に近いものを感じながら、門へと歩を進める。
おそらくユウキがこの町に来ることは二度とないだろう。
あの初老の奴隷を含め、この町の住民たちと会うことも二度とない。
センチメンタルとも言えないような感情を堪え、荷物を全て皮で出来たたすき掛けのカバンに入れた。
ユウキとは入れ違いに、最後の奴隷が門をくぐってきた。
ユウキとは同い年か少し上だろうか。
片足を引きずるように歩き、他の奴隷と同じ渇いた瞳をしていた。
その奴隷は他の奴隷とは違い、珍しくも黒髪だった。
手入れのされていないボサボサの髪で、くすんだように艶もなく灰色にも見えた。
不意に視線が合った気がしたが、その奴隷は立ち止まることなく町の中心に向かって歩いていく。
何となくそれを見送ってから、ユウキは門をくぐり二度と来ないであろう町に背を向けて進んだ。
「わふっ!」
「遅かったですね。……やはり見ましたか」
野営地に戻ったユウキをチョコとオクタが出迎えてくれた。
飛びついてきたチョコを優しく受け止めて胸に抱き、おやつの干し肉の欠片を口に入れてやる。
「わふわふ♪」
小さな口から欠片が落ちないよう前足でおさえながらカジカジと干し肉を食べるチョコに癒される。
カジカジ。はむはむ。
「ただいま戻りました。見たって……あの、奴隷たちのことですか?」
「そうです。あなたのように異世界からやって来た人は、大概奴隷というものを見てショックを受けます。なのでもう少しこの世界に慣れてから、と思っていたのです。特にここは開拓村。帝国ほどでないにせよ、やはり奴隷の扱いはよろしくありません」
「そうなんですか。確かにショックは思いの外ありました。あれは……人というより道具です」
「……。この世界では必要な存在として認識されている以上、奴隷がいなくなることはないでしょう。多くの種族にとっては奴隷とは当たり前の存在ですから」
そう言うオクタはその多くの種族には該当しないのだろう。
奴隷という存在そのものに何かしら強い思いが感じられた。
それは恐らく主人であるオウルが付けている首輪が関係していることは間違いない。
「さぁ、オウル様がお待ちです」
そう言ってオクタは森の方へと歩き出す。
優しくユウキの頭を一撫でして。
今度髪を切りましょうねと伸びた髪を軽く払われる。
オウルは森の奥に用事があると別れ際に向かっていった。
まだオクタやオウルについてユウキが知っていることは少ない。
けれど半年一緒に暮らしていれば分かることはある。
彼等には何か目的があり、ユウキを助けこうして教育のようなことをしてくれているのも何か理由がある。
もっとも気づかいや言動から鑑みるに、お人好しというわけではないが懐の深い人達でもある。
言葉の節々から、ユウキのような異世界からの迷い人のことをよく知る言動が多々見られるが、ユウキに彼等の考えが読み取れるわけもなかった。
干し肉を必死にかじるチョコを抱いたまま、ユウキはオクタのあとを追った。
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