第14話〜瞳にうつる彼らは

ユウキの目の前を首輪をした奴隷たちが通り過ぎていく。


粗末な布切れから覗く四肢は瘦せ細り、至る所に傷跡と痣が見えた。


足は当然のように裸足で、ガリガリに痩せているのに荷物を山のように背負っている。


ユウキは呆然と彼らを見送った。


これが当たり前の光景であることは、誰一人としてユウキのような目をして彼らを見る者がいないことからも明らかだった。


ユウキの背に寒気よりももっと冷たく重いものが流れたように感じた。


誰一人として、彼らを見ている人はいない。


いや、近くを通れば邪険に暴力を振るう訳でも、顔に出して反応することもなく、普通に道を譲る光景すらあった。


無意味に鞭打つこともないし、監視のために見張っている様子もない。


ただ普通の人より粗末な服を着て、靴を履いていなくて、開拓者たちの後を彼らの荷物を持って付いて行っているだけ。


しかし、ただ町中にある荷物や馬車、馬などを見るのと大差ない何の感情もない普通の目なのだ。


町行く人々の瞳にうつる彼らは。


これが当たり前なのだ。


同じ人間でありながら、当然のように道具と同じ存在。


歴史の授業やテレビなどで見聞きした奴隷に関する知識。


創作物などに出てくる奴隷。


首輪がついてはいるが、それらに比べれば…。


憂さ晴らしの道具のように痛ぶられた様子はない。


体から覗く傷も作業中に付いたようなものばかりに見える。


粗末だが服も着てるし、足枷のように行動を縛るものも見えない。


しかし、ユウキには彼らがただの消耗品として存在しているようにしか思えなかった。


ユウキが異世界で生まれて初めて見た奴隷は、そんな存在だった。


「っ……」


ユウキの近くを歩く初老の奴隷が持っていた荷物から道具が一つ落ちた。


それに気付いた初老の奴隷は拾おうとするが、限界近い重さと大きさの荷物のせいでうまくいかない。


一つ、また一つと他の荷物まで落ちていく。


それを通行人を含め他の奴隷も誰一人として助けようとしない。


「どうぞ」


つい反射的に落ちていた道具を拾って、初老の奴隷に渡した。


ついでに他のものもまとめて背負っている荷物にまとめてやる。


初老の奴隷はまるで雨が地面から空へと戻っていくのを見たような顔をしてユウキを見ていたが、やおら頭を下げて奴隷の列に戻っていった。


ユウキの行為を咎める人もまた誰一人としていなかった。


ユウキは初老の奴隷の抜け切ったような表情と、わずかに見開かれた瞳がなぜか視界をチラつくように忘れられなかった。


戻ろう。


ユウキは片手に持っていた買い物を持ち直して、人の出入りの少なくなった町の入り口に足を進めた。


無性にチョコに会いたくなった。


ユウキの異世界初めての買い物は、特に何事もなく、終わった。

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