第13話〜開拓村

「えっと、これで全部かな?」


既にあたりは陽が傾き、あと半時もすれば太陽が地平線の向こうへと消えていくことだろう。


それほど大きな村ではなかったが、それでもメインストリートは人で賑わい、人を避けて通る必要があるくらいには混雑していた。


村と聞いてイメージしていたよりも開拓村は大規模で、街と言ってもいいほどの規模だった。


メモにあったものの大半は相場から大きく上下することもなく、香辛料の類は許容額よりやや高かったため買わなかった。


開拓村と町、それらが混同しているように聞いていたが、この町を拠点に少しずつ開拓地を広げていて、その前線を開拓村と呼ぶらしい。


普段の生活は町で、開拓は前線で。


そのため日の暮れかけた今の時間は開拓村からの帰宅者でごった返していた。




始めは異世界初の買い物に緊張していたユウキも、この半年で日常会話を片言で済ますくらいには喋れるようになっていたため途中からは緊張も解けた。


まだ読み書きはじっくり腰を据えてやっていないため多少不安は残るが、それでも値段や簡単な単語くらいなら分かる。


それほど見て回るところはないが、それでもユウキは時折キョロキョロと辺りを見渡した。


金髪や茶髪、中には赤や青い髪の人種もいて、肌の色も白が多いが黒や黄色もいなくはない。


染めているのではなく、自然とカラフルな髪の色をしているのは見ていて楽しかった。


あいにくとファンタジー世界の定番であるエルフやドワーフ、獣人などはみかけなかったが。


オクタいわくもっと大きな街にはいるそうだ。


といっても種族ごとの住み分けではないが、異なる種族の生活圏で暮らそうとする者はあまりいないらしい。


そして人族にはユウキのような外見の者はあまりいないそうだ。


黒目黒髪を隠すために、ユウキは念のためローブを目深にかぶっていた。


そのおかげかそれほど注目は浴びてなかった、と思われる。


それでも何度かスリに合いそうになったが。


もっともこれはやはりこの世界の住民からしたら、平和な日本育ちはカモに見えてしまうためかもしれない。


あからさま過ぎてそのどれもを簡単にあしらうことができたわけだが。


「よし、香辛料は買えなかったけど、まだ調味料の残りはあったはず。チョコが寂しがってるだろうし早く戻るか」


小さな町とはいえ毛玉サイズのチョコを連れていてははぐれてしまうため、今はオウルと共に野営地に残っている。


チョコはオウルにも懐いているが、それでもユウキが買い出しに出ようとした時には何度も鳴いて引きとめようとしていたくらいだ。


「……お金は少し多めにもらってるし、一つくらいならおみやげを買ってもいいって言ってたよな」


オクタからチョコにおみやげを買う許可はもらっている。


チョコはああ見えて食い意地が張ってるので、何か変わった干し肉でも買って行ってあげると喜ぶかもしれない。


「干し肉は確かあっちの店に……ん?」


このメインストリートは町の入り口からまっすぐに続いているのだが、先程から仕事帰りの開拓者たちで賑わっていた。


しかしなんとなく入り口方向の空気が変わった気がして、そちらに顔を向けた。


そこにはおそらく開拓者集団の最後尾と思しき団体がいた。


そして開拓者たちの後ろには、徒歩で道具を運ぶボロ布を着た集団がいる。


「あれは……」


その全員の首には、どこかで見たことのある頑丈そうな首輪が嵌められていた。

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