第11話〜オウルという男
鍋が煮えてほどなくすると、当たり前のように泉の上を歩いてオクタと、そしてオウルが現れた。
もはや驚く様なものではなくなったが、しかし人を水面に浮かせるとなると、どれだけの糸が必要になるのか。
あと、水面を歩くのはどういう感覚なのだろう?
ユウキはそう思った。
「おはようございます、オウルさん」
「…………。」
挨拶をすると、無言で頷くオウル。
ユウキはオウルの声を一度も聞いたことがない。
本人が寡黙なのもあるが、その答えは首に巻かれた布の下にある。
食事のために下げられた布の合間からチラリと覗くのは顎近くまで届く引き攣れた傷跡と、無骨で頑丈そうな首輪。
オクタは何も語らず、本人は無言。
ユウキも気軽に聞けるほど勇者ではない。
布で覆われた両目、嵌められた首輪、顔や喉にある傷跡。
そこから連想できるのはあまり愉快な答えではない。
わずかに覗く顔からは年齢を窺うことはできないが、しかし確かに重ねてきた年輪のような存在の厚みを感じる。
どれだけの悲惨な過去があったのだろう?
なぜユウキを助け、生き延びるための術を教えてくれるのか。
依然として不明なことばかりだ。
それでもユウキはこの寡黙な、魔王のような男に敬意を抱いていた。
この半年間、オクタと共に様々な技術を教え込んでくれた師であるからだ。
細かい説明の必要なものはほとんどオクタに教わったが、彼女の技術のほとんどはオウルから教わったものらしい。
そして体術と剣術に関しては実戦形式でオウルに教わっている。
言葉を交わさずとも背中で語る、寡黙でありながらも優しさを感じられる巌のような男。
それがユウキから見たオウルという男だった。
ある意味憧れの男性像かもしれない。
「わふん!」
近づいたチョコを優しく、潰さないように撫でる手つきを見れば、第一印象など当てにならないことがよく分かる。
それに小動物に優しい人が悪人なわけがない。
「それではいただきましょう」
「…………。」
「いただきます」
「わふ~♪」
客観的にこの場を見て、どんな風に見えるだろうか。
全身鎧に顔の大半を隠した男。
異様な紋様の仮面を付けた女性。
旅装の子供に毛玉。
それが仲良く鍋を囲んで食事をしているのだから。
さぞや奇妙な光景に映ることだろうとユウキは思った。
けれど不思議とそれに馴染んでいる自分がいて、なんとなくおかしく感じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます