第8話〜癒し

ユウキが助けられてから、半年が経とうとしていた。


この半年を端的に述べるならば、ただ一言「いっそ殺せ」。


異様としか形容できない【魔王】に助けられ、そのままなし崩し的に一緒に旅をすることになって半年。


なぜこんな世界に飛ばされてきたのかも分からないまま、とにかく生き延びることだけを考えて生きてきた。


その間に死にかけること二桁余り。


戦う術というよりは生き残るための術を教えてくれと頭を下げ、そこからこの地獄は始まったのだ。


…………。


「ほら、繋がりましたよ。まったく、あなたは何回殺されれば殺されなくなるんですか?」


なんて台詞だ。


ユウキは反論しようにも大量出血で血が足りず、ボーッとしながら声にならない呻き声をあげた。


「ほら、【血晶花の実】です。口に含んでしばらく休んでいなさい」


そう言ってオクタは紅く艶のある小ぶりな実をユウキの口に入れた。


口内に広がる濃厚な味。


鉄分豊富なアセロラみたい、というのがユウキの感想だ。


血晶花の実は造血作用と回復力の向上効果のある実で、出血後もしくは前に口に含んでおくだけで効果がある。


この半年で様々なものに出会ったが、その中で一番お世話になっているのはこの実かもしれない。


いや、ある意味もっと助かっている存在がいた。


「わふっ!」


しばらく転がっていると、やや高めの鳴き声が聞こえて、小さな毛玉が転がるようにユウキのもとへと近づいて来た。


「チョコ!」


「わふっ!」


ぽてんとユウキの胸の上に乗っかり、勢い余って転げ落ちそうになる毛玉を両手で受け止めてやる。


すると嬉しかったのかチロチロとあごのあたりをなめてきた。


「こらチョコ、くすぐったいって」


「わふっ!」


この毛玉、もといチョコはユウキが旅に出てから1週間ほどした時に木の陰で衰弱しているのを助けた犬……のようなものだ。


…………。


最初に見た時は何かの抜け毛のように見えて、小さく鳴くのが聞こえなければ気付かなかっただろう。


親とはぐれたのか、近くにはそれらしい生き物もなく、弱々しく鳴くこの子をどうしても見捨てられずオクタさんたちに頼み込んで世話をしてきた。


旅の途中の厳しい修行の合間、この子の世話をしつつも、この子の存在がどれだけ励みになったことか。


「お腹空いたのか?ちょっと待ってて。もう少しで動けるようになるから」


「わふ~!」


最初は片手にすっぽり収まる程度の、本当に小さな毛玉だったが、今では毛糸の玉くらい?


どちらにせよ片手で持てる毛玉のような見た目だ。


半年でこれだけしか成長しないということは、それほど大きくなる犬種でもないのかもしれない。


ユウキはこの小さな相棒を優しく撫でてやった。

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