第7話〜異世界への順応

走る、跳ぶ、避ける。


それがユウキにできる全てだった。


木々の合間を縫って極力スピードを落とすことのないように、走る。


木の幹を、突き出た岩を足場に決して立ち止まらぬよう蹴って、跳ぶ。


正面から、又は後ろから、あらゆる角度から訪れる攻撃を目視で、それが叶わなければ勘で、死ぬ気で、避ける。


命のやり取り?何それ漫画かアニメ?


そんなことを思えた過去が実に遠く思える。


集中が途切れてしまったせいだろうか。


ユウキの首にいきなり裂傷ができた。


オクタの《不可視の糸》だ。


意図的に察知しやすい糸に紛れて、ある程度分かりにくくした糸が配置されていたらしい。


「っ‼︎」


痛みというよりは急激に強まる熱。


しかし視界の端に首から吹き出す血飛沫が見えないことから、脈などは傷付いていないことを察して無理やり意識から遠ざける。


《闘気》によって強化された体のおかげで、通常なら致命傷になるような傷も軽く出来る。


まるで超人にでもなったように身体が軽い。


今ならオリンピックで金メダルを総なめすることだってできるだろう。


新体操のような複雑な動きだってやろうと思えばできる。


だから大丈夫。


この程度なら死なない。




どれだけ元から身体能力が上がろうとも油断など出来ない。


これまでの道中で死の淵を何度経験したことか。


この世界でのユウキは元の世界での幼稚園児にも劣る。


そんな認識だ。


毎日のように息をするように殺されていれば誰だってそう思う。


そのせいか最近ではどの程度致命的な傷を負ったのかがなんとなく分かるようになってしまった。


ユウキはこの世界で生まれ育った人ほどうまく《闘気》を扱うことができない。


全身に《闘気》を満遍なく張りめぐらせる事は出来ない。


しかし地面を蹴る瞬間だけ、足を強化する。


攻撃が来ると直感した部分だけ強化して防ぐ。


そうやって器用に、体力同様に有限な力をやりくりしていく。


それでもやはり集中力には限界がある。


息をするように扱えない。


魚は水の中という環境に生まれながらに適応している。


だから水の中で泳ぐことが当たり前。


でなければ生きていくことなどできはしない。


「ほら、まだ雑念がありますよ」


何処からともなく聞こえた涼しげなその声が引き金となり、次の瞬間にはユウキの左脚は付け根から切断された。


(あ、致命傷……)


ユウキは跳んだ勢いのまま、バランスを崩して近くの茂みに落下した。




ユウキが助けられてから、半年が経とうとしていた。


まだまだ彼はこの世界に順応し切ることができないでいた。

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