第6話〜オウルとオクタ

ガサッ


しばらくして、先ほど仮面の女性が向かっていった方から何かが近付いてくる音がしてきた。


なんとか体を起こしそちらを見ると、仮面の女性とその後ろから大柄な人影がこちらに向かって歩いて来ていた。


おそらくは男性と思しき大柄な人は、記憶にある姿と違い、ローブを着ていなかった。


そのため全貌を見ることができる。


後に寝ているユウキが包まっていたのがそれだったのだと知り、青ざめるのは別の話だ。


その男の外見は、雰囲気は、一言で表すならば、《魔王》。


大人しめに表現しても暗黒騎士や首のあるデュラハンか。


それ程までに禍々しくも目を奪われるような全身鎧で身を包んでいた。


そしてそんな鎧では抑えきれていない存在感と威圧感。


まるで草木が、その場の空気すら息を潜め、彼を通すために避けていくようなイメージが浮かんだ。


唯一露出しているのは顔面だが、それも目元は複雑な模様の刺繍された布が巻かれて隠され、口元も首に巻かれた同じ模様の布でほとんどが隠れている。


左頬に大きな傷跡があることと、白髪に艶やかな黒髪がメッシュのように入っていることくらいしか身体的な特徴は窺えない。


目隠しのように分厚い布越しに目があった気がして、ユウキは目が離せなくなる。


ユウキは苦しくなって胸に手をやり、そこではじめて無意識に息を止めてしまっていることに気付いた。


「少々お待ちを」


ユウキがその威容に呑まれていると傍の女性、そちらもまた異様ではあるが男ほどではない、がすぐ近くのそこそこ立派な木に向かって手を振るった。


すると初めは何事もなく、そして次に幹の途中から上が唐突に燃え上がった。


それはユウキが意識を失う前に見た、醜い死骸の末路と同じだった。


残された大きな切り株に、男が当然のように腰掛ける。


テーブルにも使えそうなその切り株も、男の体躯からすればちょうどいい椅子でしかない。


「…………。」


「あの……。」


無言の威圧感がすごい。


しかし不思議とユウキは次第に落ち着いていった。


まるでこの男が自分に危害を加えないことを知っているかのように。


当然状況からしてユウキはこの二人に助けられたのであって、危害を加えることなど寝ている間にもいくらでもできたわけだが。


しかしそれを脇に置いておいても、何故か身がすくむことも緊張することもなかった。


「それでは私の方から紹介させていただきます」


男の傍に控えた仮面の女性が一歩前に出た。


「この方は私の主であるオウル様です。そして私はオウル様の配下のオクタと申します」


仮面の女性、オクタは端的にそう紹介した。


「あの……えっと、俺は阿部佑樹と言います。助けてくれてありがとうございました。あー、よろしくお願いします?」


多少どもりつつも声は普通に出た。


しかし、何をよろしくお願いするのだろうか。


「はい、よろしくお願いします、ユウキさん」


普通によろしくお願いされてしまった。


「…………。」


「…………。」


「…………。」


深緑よりも深く色濃い沈黙が辺りを覆った。


え、終わりなの?というユウキの疑問は声になることはなかった。

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