第5話〜目覚めて
…………。
夢を見ている。
意識が浮上しかけ、夢と現の狭間にいる。
ぬるま湯の中を揺蕩うような、あやふやな感覚。
ユウキは学校の教室にいた。
いつも通り登校して、授業を受けて、放課後を迎えて。
帰りのホームルームを終えてクラスメートと談笑を始めて、最初の生徒が扉を開けた瞬間。
場面が切り替わるように、ユウキは森の中にいた。
『…………。』
木のウロの中にいるユウキ自身を宙に浮かびながら見る。
やがて雨は止み、ウロの中からユウキが出てきた。
『…………!』
出ちゃダメだ!
そう叫んだつもりたったが、夢の中の彼は止まることがない。
鬱蒼と茂る森の中を進んでいくユウキ。
そしていつしか小さな化け物に追いかけられ始める。
はたから見ることであの化け物が子供程度の背丈しかない、醜いだけの生き物であることが分かる。
しかしそれでも群がられれば嬲り殺しにされてしまうほどには、危険な存在。
やがて疲れ果てた夢の中のユウキは転び、起き上がれなくなる。
小さな化け物の嗤う声に同じ化け物がわらわらと集まり。
『…………!』
何か聞こえた気がした。
同時にユウキは目を覚ました。
「……ッ!」
起きてすぐに全身の痛みで呻いた。
特に折れた右腕、そして足首に強い熱と痛みを感じる。
しばらく呻いてようやく慣れてきた。
しかしあれだけ殴る蹴るされた割には痛みはそれほどではなかった。
見れば右腕には添え木がされていた。
足首にも、不思議な光沢のある白い糸がテーピングのように巻き付けられている。
そしてローブを被せられていた。
これは毛布代わりだろうか。
着ている服も学ランではなく作りの荒いゴワゴワした服だ。
辺りを見渡すと近くの木の枝に脱がされた服が干されていた。
見た所洗われて泥などは落とされているようだ。
立ち上がろうとして、癖で右腕を使って悲鳴をあげ、足首も地面につけられずにもがいていると、藪をかき分けて小柄な人影が現れた。
「目覚めましたか。体の調子はどうかしら?折れた骨は一応繋げたのだけど」
そう言いながら近くまで来て、膝をついてユウキのことを観るこの人は、おそらくは女性だ。
全身を黒いローブで覆い、艶消しされた鎧を身に纏った、顔全体を隠す仮面をした女性。
鎧の形状と仮面越しに聞こえた声から、なんとか女性と判断することができた。
仮面まで黒く、八つの紅い瞳の埋め込まれたデザインで中々に禍々しい。
しかしユウキの身を心配するような声音に、恐怖を感じることはなかった。
鎧という普段見慣れない格好には面食らったが。
口調自体はクールビューティと形容して違和感もないのだが、どこか子供を心配する母のようなものを感じた。
「あの、えっと……」
「ああ。現状は把握できていませんね。主を呼んできますので、少々待っていて下さい」
「あ、はい」
「この辺りの獣などは狩ってますし、罠も仕掛けてあるから心配はしなくてもいいですよ」
そう言って仮面をつけた女性は行ってしまった。
ユウキは起き上がっているのも辛くなり再びゴロンと横になる。
まだ頭の中は整理できていないが、改めて生きていることを実感することができた。
ここは薄暗い森の中でも比較的日の当たる場所らしい。
ユウキは不安を覚えることなく横になることができた。
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