第4話〜出会い

先程まで絶望をもたらさんとしていた7体の死骸が、ゆらゆらと揺れる。


そのどれもが醜悪な顔をさらに醜く歪め、糞尿を撒き散らしながら絶命していた。


汚物から放たれる臭気に気付き、反射的に吐き気を催すが、しかし。


先程までの絶望など比べ物にならない恐怖がユウキの喉を封じ込め、呼吸すら止めていた。


それ程までに異質だった。


宙に浮く死骸の向こう側にただずむ二つの影。


ユウキは本能で感じ取った。


アレは駄目だ。


逆らってはいけない、と。


敵対的だと思われたら最後、これらの死骸と同じ死が待っている。


ユウキは今”生かされている”。


危機感、それだけがユウキが後一歩踏み出すのを押さえつけている。


悲鳴の声を抑えている。


「…………。」


二組の影のうち、やや小柄な方の影が腕を振るった。


すると宙に浮いていた、吊るされていた死骸がどさどさと音を立てて地面に転がった。


そして唐突に、死骸が炎に包まれる。


瞬く間に死骸は燃え尽き、炎もまた灰だけを残して消えた。


灰さえ残っていなければ、未だに残る熱と生き物を焼いた臭気が残っていなければ、幻か何かだったのではないか。


そう思えるほどに、あっという間だった。


そんな非現実的な光景を見たからだろうか。


それともとうとう限界を超えてしまったのだろうか。


不思議とユウキの心は凪いだ水面のように、いや、夢を見ているように落ち着いていた。


倒れていた体を起こす。


折れた右腕は傷んだが、我慢できないほどではなかった。


腰が抜けたのか、怪我のせいか、半端な体勢までしか立ち上がれなかったが、それでも二本の足で立ち上がることができた。


二組のうち、大柄な影が近付いてくる。


視界が悪いせいでよく見えないが、影のように見えたのは全身を覆うローブのせいだったのだと気付く。


「…………。」


大柄なローブ姿の影は、まるで迎え入れるかのようにそっと手を差し伸べてきた。


恐怖はなかった。


何故か大丈夫だと、分かった。


ユウキは折れていない左手でその手を掴み、そして。


緊張の糸が切れたのか、意識を失って倒れる。


意識が完全に途切れる直前に、思いの外優しく抱きとめられたのを感じた。

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